KOBE ART MARCHE

Interview 19 / たんたん

TAN TAN meets KOBE ART MARCHETAN TAN meets KOBE ART MARCHE

ひらがなで“げーじゅつ家”を名乗るたんたんさん(以下、たんたん)。現代美術家としてのスタートは、34歳のときだった。それまでビクターミュージックエンタテインメントの育成アーティストとして歌手活動し、パンクバンド『ザ・クーピーズ』の活動を経て、イラストレーターとしてのキャリアをスタートさせた。2011年、イラストの公募グループ展『13回ガールズイラストエキシビジョン』(以下、G・I・E)でグランプリを受賞すると、2012年には絵画などの平面作品の公募展『ACTアート大賞展』に入賞を果たした。現在では油彩画を中心に数々のギャラリーで個展を開くたんたん。彼女のアトリエを訪ね、幼少期のことやアーティストになった経緯について、お話をお聞きした。

Photo: Shingo Mitsui  Text: Shingo Mitsui / Yuki Teshiba

ロックからアートの世界へ

たんたんの代表作である油彩画に使用される画材は、油彩や鉛筆、色鉛筆、釘や旅行チケットなどたんたんの身近にあるもの。たんたんの絵はシンプルな筆の線と、大胆に直接指先でキャンバスに色が塗られ、絵の具のチューブをそのまま貼り付けるものもある。描いては寝かせ描いては寝かせを繰り返し、時間をかけて出来上がっていく。そんな絵を描くたんたんは、どんな子ども時代を過ごしてきたのだろうか。
小さい頃から芸術的なことは好きでした。絵は見た物をそのまま描くことより、アレンジしたりデザインしたりする方が好きだったし、工作もいちいちオリジナリティーを加えることが好きでした。また歌を唄ったり、詞を書いていました。妹と替え歌作って録音したり(笑)。中学時代には“お不良”やバンドブームでロックに釘付け。あるきっかけで高校在学中からビクターエンターテインメントで歌手として育成アーティスト活動させていただくようになりました。
そこからどのようにして絵と出会ったんですか?
音楽で食べて行こうと頑張っていたんですが、叶いませんでした。今はまたバンド活動していますが、その頃はもう身も心も精魂尽き果ててしまって結果、強度のうつ状態に(笑)。部屋から一歩も出られなくなった時、当時駆け出しだった漫画家(現在のご主人)のアシスタント業を手伝うようになったんです。そこで絵を描く楽しさを思い出し「これはいける!」と何かが光ったんです(笑)。その後、運良くキャラクターブックを描かせてもらえる機会があって、主人が原作、私がイラストを担当した『おわらいおん』をメディアファクトリーから出版させてもらいました。
イラストレーターではなく、アーティストに転身したいきさつを教えてください。
イラストレーションは基本的に依頼された状況を描き、その上で自分の個性も表現するものだと思うんですが、私はそれが得意じゃなかったです。絵が上手いわけでもないし。あと最初のうちはクライアントさんへ売り込みも必要なんですがそれも下手くそでしたね(笑)。単純に自分の思うままに作ることが楽しくて、そっちの方にワクワクしていたので自然とそうなったんだと思います。「アーティストになろう」と決めたというよりはアーティストなんだと諦めたといいますか(笑)。
描きたいときに描けるのはいいですね。
そうですね。それに “新しい何か” が誕生することも楽しくて好きです。先日、新しい楽器を買いに行ったときに、壊れたベースと出会って可哀相と思いました。楽器としての価値はなくても私の絵と交わることで新しい価値が生まれる気がして、このベースを土台に絵を描いたんです。絵画に紙布とか木片を貼り付ける『パピエ・コレ』という手法を応用して。ベースは私によって新たな価値が生まれて、私は楽器のおかげで題材を見つける。お互いが適応力や生存能力が得られる関係を『ミューチアリズム(相利共生)』と言うのですが、今はそのシリーズを作りはじめています。

げーじゅつ家の誕生

たんたんが絵画を始めるきっかけとなったのが、G・I・E。グランプリを勝ち獲ることでたんたんの才能は周囲の目を集めた。このときの応募動機についてお尋ねした。
イラストレーションでは表現しきれないことを描きたかったので、たまたま知ったこの公募展に出展しました。グランプリをいただいたとき主催の館長が「イラストより絵画が向いていると思う。応援するよ」と言ってくださって、その気になって今にいたります(笑)。その他にも私の人生にはいつもこんな感じで良い方向へ導いてくれる人が登場するんです。本当に私は運がいいと思います。
絵を職業にすることで不安など感じる瞬間があれば教えてください。
絵の職業=お金もうけという感覚がないので、不安はないです。制作の時に「あああダメだ終わったーもう描けないー!」とかワーキャー言ったりはしますけど、不安ってわけじゃない。ちなみにそんな時は無理に描かないです。描かないという選択もまた、私にとっては真面目に絵画に取り組む姿勢だと思うんです。と、良いように解釈しています(笑)。

たんたん、NYへ行く

G・I・Eでグランプリを獲ったたんたんは、ビザの取得なしで行ける最大3か月間ニューヨークに留学した。愛犬「ちょんまげ」との散歩コースを案内してもらいながら、たんたんはどうして海外へ留学しようと思ったのだろうか。
海外留学は絵を学ぶというより人生経験を取得しに行きました。ニューヨークでの生活はとっても刺激的でした。絵を描いたり、ギャラリーに自分の作品持っていって売り込むべきだって言われたんですけど、どうもしっくりこなくて、やりませんでした。でも留学中は毎日毎日美術館やギャラリーを観に行きましたよ。疲れすぎて帯状疱疹になるくらい(笑)。良い作品に出会うとテンションが上がり「自分もいずれここに展示されるんだ」と想像しながらドキドキワクワクですごく楽しかったです。
何か発見はありましたか?
一番の学びは「感謝」です。分かっていたはずなのに全然分かってなかったんだなと思いました。言葉も通じない1人ぼっちになってみて初めて当たり前のことが当たり前じゃなく、人の優しさもすごく身にしみて、こんな経験できるなんて感謝、こんな経験をさせてくれた家族に感謝、友人に感謝、生きていることに感謝などなど(笑)。この世は感謝で出来ているんだと気が付きました。
思い出に残っている留学でのエピソードがあれば、教えてください。
午前中は語学学校に通っていたのですが、最初は友達もおらず孤独でつらい日々を送っていました。でも途中で「自分から動かなきゃなにも始まらない」ってことに気が付いたんです。つまり「楽しませてもらおうなんて思っちゃだめだ、楽しもう」って。英語が話せない同士の妙な会話を積極的に楽しんだり、休日にはみんなを誘って桜を見に行ったりしました。結果どんどん楽しくなって友達がたくさんできました。帰国前にはクラスのみんなで私のために盛大なパーティを開いてくれてTシャツの寄せ書きもくれたんです。「たんたんがいて楽しかった」、そう言ってもらえた経験は、今の私の絵画人生を何より豊かにしてくれています。

“私”というジャンル

たんたんはこれまで個展や絵を描くことで、自分で気が付かなかったことを発見することもあったという。
最近『自画像』という作品を描いたんですけど、以前にも『あたし』というタイトルの自画像を描いたことがあったんです。その作品同士を見比べていて、自分の絵が明るくなっていることに気づきました。それは私がいろんな心模様を受け入れられるようになって成長しているともとれるなあと思っています。それってすごい周りの人に恵まれているからかなと思いました。
絵を描くのはやっぱり楽しいですか?
良い作品が生まれた時の幸福感といったらないです。このまま時が止まればいいのにって思うくらい(笑)。でも残念ながらそれは一瞬で終わっちゃうけど。「最高に良いの描けたー!うおーー!」って思っても、その瞬間それを超えたくなるから。苦しい時もあるけど、それも含めて楽しいです。
自分はなぜ絵を描くんだと思いますか?
なぜ描くか。好きだから楽しいから。それがなきゃやらないし、むしろそれさえあれば何でもいいと思います。今すでにあるどこかのジャンルに入りたいとか思わないんです。あえて言うなら「私というジャンル」で生きています。「こうでなければならない」みたいな型にはめて作品を作るのって、本当につまらないんです。

“ありのまま”を“作品”に

この日、散歩から帰ってくると、下地材を塗ったキャンバスに勢い良く絵を描き出し、あっという間に描き上げた。部屋に飾られ、散歩道でも見た大好きな花だというミモザが描かれた絵。たんたんにとって、絵とは何かお聞きした。
私にとって絵は「生きざまレコード」です。私の心の一番奥にあるモノを、ありのまま映しています。
描く上で気を付けていることを教えてください。
心をけがさないこと。社会のグニョグニョみたいなものに邪魔されない境地で描いているんですが、心が乱れているとそこへ入れてもらえないんです。入れないと私の絵は描けなくて。無理やり描いても苦しいだけだし、嘘の線は人にバレなくても自分は絶対ごまかせないですからね。絵も人生も同じ、正直に生きていきたい。そうやって生きた証が作品なので。

原点回帰できる絵

自分を律してバランスの良い生活を心がけて1日を過ごしているというたんたん。奔放な感情はなかなかいうことを効かないという。
繊細で不安定な性格なので、誰よりも自分を理解できる「たんたんのプロ」であるよう心がけてはいますがなかなかむずかしいです。日々周りの方々に助けられています。そういう意味であたしは恵まれているんです。
夢はありますか。
みんな幸せになればいいなと思っています。今の時代は楽しんだもの勝ちで、一人ひとりが楽しむことが一番世界平和に繋がるという風に思っています。世界中の人があたしの絵を見て幸せになれたら、すごく嬉しいです。
絵描きとして将来のビジョンはありますか。
今ある何かになりたいわけではないので、あたしは “あたしの最高” を目指すだけですが、見られたら嬉しいのは、どこかのパパやママが子どもの絵を見て「たんたんの絵みたいだね」なんて言いながら嬉しそうにその子の絵を飾っている所かな。
たんたんにとって芸術とは何ですか?
人生(生きざま)だと思っているんです。どんな生き方をしているかなんじゃないのかなって。作品にはどう生きたかが素直に出るから。そのにじみ出ている“何か”に共鳴したり感動したりする。それって結局ロックなんだって思うんです。
最後に、アーティストを目指す若者にメッセージをください。
とにかく楽しんで自分が好きなように生きて、自分が好きだと思う作品を作って欲しいです。誰かの目を気にして作った作品なんかより、あなた自身のまんまの作品の方が魅力的だと思うんです。アート作品ってそういうものです。泣くも笑うもひっくるめて今のアーティスト人生を楽しんでください。

ARTIST PROFILE

たんたんさん

1977年生まれ。愛知県出身。ビクターエンタテインメント育成アーティストとしての歌手活動を経て、パンクロックバンド「ザ・クーピーズ」を結成(現在は解散)。上京後、2007年より書籍・雑誌等のイラストやキャラクターデザインを手がける。2011年『ワールドイラストアワード』グランプリ受賞。受賞を機に「げーじゅつ家」として油彩画を中心に文芸・造形など幅広く活動をスタートさせる。現在、”完売作家”として美術業界から注目を集めている。

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