KOBE ART MARCHE

YURI HAMANO meets KOBE ART MARCHEYURI HAMANO meets KOBE ART MARCHE

神戸アートマルシェに合わせて開催される、若手アーティストのアートマーケットの活躍を後押しする公募展「Artist meets Art Fair」。これまで多くの方が、神戸の街から広いアートマーケットの世界へと旅立ってきました。本連載「Stories After Art Fair」では、Artist meets Art Fairの過去の受賞者のその後の活動の様子や、当時の思いについてお伺いします。第1回はアーティストの濱野裕理さんです。

本日はよろしくお願いします。早速ですが、Artist meets Art Fairにご応募されたきっかけを教えていただけますか?
大学卒業後、「年に一度個展をする」という目標を立てていて、京都で発表を続けていました。その中で、「年に一度の個展」という目標はずっと達成が出来ていたのですが、20代から30代に変わるちょうど節目ぐらいのタイミングに差し掛かっていて、漠然と今後に不安があったとというか、「このままでいいんだろうか?」と考えていました。自分の作品にもあまり自信が持てていない時期で。そんなときに、神戸アートマルシェでの公募展(註:Artist meets Art Fair)があることを知って、力試しの気持ちと、ここから変わりたいという気持ち、その両方の気持ちから応募しました。
当時の作品は、今の作風とだいぶ変わっていますか?
見た目というか、パッと見たときの見た目は変わってはいると思います。ただ、自分が描きたいと思っているものは、そんなには変わらないと思っています。
濱野さんが「描きたい」と思っているものについてお伺いさせてください。
はい。私が描いているのは、自分自身が今生きている社会や、日々の何気ない生活の中を見つめながら、その中で心が動いたりする瞬間、そういった場面での気持ちの移り変わりだったり、感情の波だったり。そういったものを表現したくて、絵を描いています。
「自分自身が今生きている社会」。濱野さんには今の社会はどのように映っているのですか?
私自身、自分の周りのことなので、他の人がどう感じているかはわからないですが…。私はけっこう、社会の中でちょっと孤独というか、周りに人がいっぱいいるけれども、自分自身が上手く社会とつながっていけないといった孤独感を常に感じていて。私の中で作品制作は、社会とつながっていくための接点を見つけていくことだと思っています。私だけじゃなくて、皆さんきっと将来に対する不安や、今の不安定な社会の中で、漠然となにか満たされない気持ちや、不安感を抱いていると思います。そうした中で、アートを通じて何かを考えるきっかけになったり、癒しになるような仕事を私はしたいと思っていて。
どこか満たされていない気持ち、まさに現代の人だれもが持っていますよね。
そうなんです。特にコロナ禍に入ってから、人と人とのつながりが、距離があるというか。物理的な意味もそうですし、精神的にも。会いたい人にすぐに会えなかったり、そういったもどかしさがある中で、社会全体がなにか心の拠り所のようなものを求めている気がしています。
心の拠り所としてのアート、制作活動をされているとお聞きしました。Artist meets Art Fairに応募した際の作品も、そうした思いが込められていたのですか?
応募した作品のタイトルは、「あの日僕らが見た風景はこの世界の断片に過ぎない」というちょっと長いタイトルが付いています。描いているものは、風景とも言えない、風景画のような抽象画のような絵で、これは私自身が日頃見ている近所の公園をモチーフにして描いた作品なんです。
漠然と、もやっとした背景に、公園にあるジャングルジムとか、動物の遊具がうっすらと浮び上がっていて。背景は特に中には何もなく、ピンクのような、紫のような背景で。これは、普段見ている風景でも、風景の中に見落としているものがたくさんあって、「私たちは普段、何を見て、何を考えているのか」といったことをテーマに描いた作品です。私たちって、普段インターネットとかテレビで知らない国だとか、行ったこともないような遠い場所のことも知ったような感じで、知識として頭の中にありますが、実際のその場所を体験したことはないですよね。その風景の、その場面の一部しか切り取っていないのに、あたかもそれが世界のすべてのように捉えてしまっている。そうした思いが自分の中にあったので、それをもう一度考え直す、といった作品です。何気ない公園の風景なんですけど、背景はどよっとしていて、なんだろう、はっきり見渡せなくて、不安もあるような。
最初はピンクの背景がかわいいと思っていましたが、今は見方が変わって見えてきました。
一見すると可愛いものだったり、きれいなものだったり、そういったものも見方を変えると、怖かったり、寂しかったり。見る人によって感じ方が違う。見方によって捉え方が変わる、視覚のトリックに興味を持って描いています。かわいいようなものをカラフルに描いているように見えるけれど、実は裏側に不安な空気というか、自分自身の葛藤が隠れているという作品です。当時はそういった作品が多かったと記憶しています。このようにものの見え方、捉え方に興味を持って描いた作品もありますし、今でも同じ考え、テーマで描いている作品もあります。ただ、作品によって描きたいことは都度変わっているかもしれません。
この作品が、受賞作品となりました。Artist meets Art Fairに入選して、作家活動に変化はありましたか?
一番大きかったのは、それまでは京都の一つの画廊でしか発表していなかったので、誰にも知られていない作家というか。誰も私のことなんか知らんやろ、といった感じだったのが、見てくださる人が増えたことが一番大きな変化でした。あとは、その後のお付き合いで。神戸アートマルシェでご縁があったギャラリーさんに声を掛けていただいて、今まで展示したことがない場所で展示をさせてもらう機会があったり、自分自身でもびっくりするようなご縁があり、活動の場所が広がりました。
ちなみに受賞作品は、「絶対入選する!」と思って応募したのですか?
自信はなかったです。応募のきっかけの話の中で、力試しの気持ちもあったと言いましたが、当時は自分自身の作品にあまり自信が持てていなくて。これでいいのか、といった迷いがあって。そこで選んでもらえたことで、ちょっとした自信にはなりました。
その後は自信を持って活動出来るように…?
そこは微妙…なんですけど(笑)実際に神戸アートマルシェで、他の作家さんの作品を見る機会もあって、最初はものすごく打ちのめされました。「こんなにすごい人がいっぱいいるんだ」みたいに。勉強をする機会や、教えてもらうこともたくさんあって、それが自分自身の作品の成長につながっていったと思っています。
神戸アートマルシェでは、実際にブースでコレクターの方ともお話されたかと思います。印象的な出来事はありましたか?
やはり反応がダイレクトに来るので、興味がないひとははっきりと…。ただ私の作品をすごく好きと言ってくださる方もいらっしゃって。とにかくいいことも、悪いことも、様々な反応が直接聞けたことが勉強になりました。
受賞がきっかけで、活動の幅が広がり、今はどんどん活躍されているかと思います。今後の作家活動の中で目標はありますか?
やりたいことはたくさんあるんですけれど、もっとたくさんの人に自分の作品を見てもらいたい、と思っていて。まだ自分が活躍しているという、そういった実感はあまりないですね。ただ一昨年ぐらいから展覧会にも声を掛けていただいたり、ありがたいことにそういった機会が増えて。おかげさまで忙しくさせてもらっているので、その成果を見せたいと思っています。今の目標は東京のギャラリーで個展をやってみたい、というのが一つの目標です。まだ場所も決まっていないのですが。東京に限らず、自分が行ったことない場所、やったことない場所で展覧会をやってみたいです。あとは、作品に向き合う時間を今よりもっとつくれるよう努力して、一つの作品をじっくりと、自分が納得するまで描きあげて、これだ!というものを更に作りたいと思っています。
大きさにもよると思いますが、一作品にどれくらいの時間がかかるのですか。
本当に作品によります。すぐにできるものは一週間とかで出来るものもあるし、いつになっても出来ないものはあるし…。
受賞作品のときは、いかがでしたか?
結構昔なので、どれぐらいかかったかは正直覚えていないのですが、この作品の背景になっている部分は、ガラスやビーズなどの様々な素材が入っていて、下地づくりにかなり凝っているんです。この作品にとても時間がかかったことは覚えていて、描きながら探り探りで描いて、苦労した記憶があります。ただ、苦労したこともあって、自分でも好きな作品だったので、これを選んでいただいてとても嬉しかったことを覚えています。
受賞された頃(2015年)は、他の公募展にも応募されていましたか?
はい、その頃は他の公募展にも応募していた記憶があります。ただあまり良い結果にならなくて、落ち込んでいた時期でもありました。受賞が決まり、神戸アートマルシェに出展出来ることがわかったときはとても嬉しかったです。
最後になりますが、今、応募をしようと考えている作家の方へのメッセージをお願いします。
私自身、応募した当時は、将来に対する不安や、正解が見えない中で悩んでいた時期でした。今作品を作っている作家の方でそうした気持ちを持っている方もいらっしゃると思います。そうした方たちに、なにか悩んでいるなら挑戦してみたほうがいいよ、と伝えたいです。振り返って、私はやってみてとても良かったと思える部分が多くて。現状から変わりたい気持ち、何でも怯まずにチャレンジしてみてはどうでしょうか?ということをお伝えしたいです。

ARTIST PROFILE

濱野裕理さん

1986年生まれ。奈良県出身。2009年京都嵯峨芸術大学造形学科油画分野卒業。「心の内側にある心象を描きながら、自分自身の存在やそれを取り巻くいま現在の社会について考察しています。秘めた感情を解放し感覚に身を委ねながら『生きている実感』を噛み締めるように制作しています。」関西を中心に個展多数。近年はアートフェアなどにも参加し精力的に活動している。

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