KOBE ART MARCHE

MAYU KUNIHISA meets KOBE ART MARCHEMAYU KUNIHISA meets KOBE ART MARCHE

神戸アートマルシェに合わせて開催される、若手アーティストのアートマーケットの活躍を後押しする公募展「Artist meets Art Fair」。これまで多くの方が、神戸の街から広いアートマーケットの世界へと旅立ってきました。本連載「Stories After Art Fair」では、Artist meets Art Fairの過去の受賞者のその後の活動の様子や、当時の思いについてお伺いします。第3回はアーティストの國久真有さんです。

まずはじめに、公募展にご応募いただいたきっかけを教えてください。
神戸芸術工科大学に入る前にも、ロンドンに行っていて、9年ぐらいずっと学生として活動をしてきていました。当時は自分が納得する作品を作ったり、コンセプトを固めたりすることに時間を掛けたいと思っていて、外に出て活動することはあまりありませんでした。ただ、オルタナティブのスペースで個展や、大学つながりの個展、グループ展に参加している中で、地元の神戸のアーティストの知り合いが欲しいという気持ちが出てきて。神戸の北野にある共同アトリエに入ったんですね。そこでジャンルも、スタンスも、仕事も、それぞれのアーティストの方たちに出会って。同世代の仲間、知り合いが更に欲しいと思うようになりました。そこで神戸だったら、神戸アートマルシェがある、となって。作品を販売することも初めてでしたし、あと、画像を3枚送るというという形で応募もすごく簡単ですよね。気軽な気持ちで応募をしてみました。
同世代の作家仲間を増やしたい。意外な理由ですね。
ずっと大学に居たので、絵を職業としている「先輩」アーティストから、作品の値段の付け方だったり、ギャラリーの人との関わり方だとか、学校では教わらない様々なことを相談できればと思っていました。そんな中で受賞をして、様々なアーティストの方と出会いました。中には今でも相談相手になってくださっている方もいます。あと神戸、今でも神戸が地元だと思っているぐらい長く住んでいたので。神戸のアーティストの人は、地元愛がすごくて。私自身も神戸を盛り上げたい、という気持ちがあったんだと思っています。
受賞後に、作家活動や、ご自身の心境に変化はありましたか?
神戸アートマルシェで同世代のギャラリストの方とお会いして、個展を行いました。そのオープニングにも神戸アートマルシェで知り合った方が来てくれました。いわゆるアート業界のギャラリーで個展をするのははじめてで、自分のお客さんもファンに別にいなかったころで。その後も相談に乗ってくれたり、展示に来てくれたりというのはありました。同じタイミングで入選した作家の方とも、今でもアーティスト仲間として相談し合う関係です。その方も神戸を拠点に活動されていて。アーティストとのつながりというのは私の中では大きかったですね。
受賞したと知ったときの心境はいかがでしたか?
私の作品はとても大きい作品がメインで、応募作品は平面の大きいサイズの作品だったので、そこがホテルの展示会場で伝わるか心配でした。なので、受賞したときはびっくりしました。
受賞時の作品について、どういったコンセプトだったとか、制作時の思いをお伺いできますか。
当時、アトリエで小さなキャンバスを大作の周りに並べて色の練習をしていました。例えば、60cmの正方形のキャンバスが3つあって、色の練習みたいな感じで、下地の色を、赤、黒、青と変えていって。周りにはそのような柵がポツポツとある感じで描いていました。展示の際はこの小さい作品を光の粒のようなイメージで展示していました。それが当時のコンセプトです。
そのコンセプトは今も描き続けているのでしょうか?あるいは、変化した部分もあるのでしょうか?
はい。種類が増えたと言うか、その小さい作品をつくるためにキャンバスを均等に切る、分解シリーズのようなものを作っています。色の練習をすることは最近はあまりありません。
國久さんの作品は、体を軸に円を描いていらっしゃって、体力勝負の作品かなと思っていましたが、実際はどうなのでしょうか?
エネルギーが有り余っているんです(笑)私は、考えないで描く、ということをしたかったんです。例えば、絵を描こうとしたときに、空白余白のバランスだったり、構成を考えてしまう。そこに、邪念というほどではないですけど、自分の考えが入ってしまうと考えたんです。だったら、どうやったら考えずに描けるか、ということで、いろんな作品を作っていたんです。線はたまたま出来たのですが、体力勝負というよりは、自分が一番スムーズに描ける方法でした。学生時代はもっと大きい絵を描いていたので、そこをキュッとまとめた感じで。マラソン的な感じではなくて、ヨガや太極拳みたいに、瞑想をしながら描いているイメージです。
「瞑想」という言葉がとてもしっくりきました。
ずっと同じ円を描いているように見えて、私は自分に対して真っ直ぐな線を引いている、という解釈です。描いているときは私には線しか見えない。立てると円が見えてくるんですけど。物差しに対して真っ直ぐに線を引くような感覚、何も考えずに描くという形の一つの答えだと思っています。
描くときに完成イメージを持ちながら描いているのですか?
(完成イメージは)ないですね。描いている最中に、だんだん描く場所がなくなってきたりしたり、制限があったりするので。何も考えないでバーっと描いているので、「なんか黒ばっかり描いているな」とかあります。色については、これは自分の中で矛盾はしているところかもしれませんが、一番個性が出る部分でどういった色を使うか、というのはあるかなと思っています。例えば、同時に3枚ぐらい大きい絵を描いていて、黒ばっかり描いていて。そのときは本当にプラネタリウムでアルバイトしていて…。ちょうど宇宙のシリーズが出来上がったときなんですけど、「これは星を描いているんだな」ということがうっすら分かってきて。そうすると、星っぽくキラキラしてきたら、描くのを終わろうかな、とか。(別の絵を見せながら)こういった水色の絵とかも。これは2年前、新潟のレジデンスに行ったときに描いたんですけど、レジデンスのそばに海があって。日本海の、海の色が広がっていて。だから最初に絵の具を買うときから始まっているんですけど、バーっと青を描いているうちに、「今はやっぱり海を描きたいんだな」、と思ったり。
知らず知らずのうちに日常生活から影響を受けて、作品の中に落とし込まれているんですね。
そうですね。色々あって、無になるとかあったんですけど、元々は本当に純粋絵画を描きたい、素直な絵を描きたいというのが一番あって。それが自分にとってこの方法が合っていたということだと思います。あまり形というか、理論ばかり追っていても、新しい次の絵画は出来ないんじゃないか、って思っています。そしてどうやれば誰も見たことないことが出来るかと考えたら、一番は自分になるということだと思います。自分に素直になることで、一番のオリジナルで、見たことがないものが生まれるんじゃないかと。
國久さんご自身も、お話していて素直な方だと印象があったので、作品にもそれが現れているんだなと実感しました。
絵画をやる前は本当に色々と…、ファッションやったり建築だったりと定まらなくて。インスタレーションや立体、ビデオをやったりとか、やりたいこともたくさんあって。その総括として、旅行にいって、景色や車窓をずっと見ていて、そういったエクササイズというのは、私にとってはドローイングなのだと考えています。だから私のやっていることを説明するときには、そう伝えるようにしています。
今のスタイルに行き着くまでに、様々なことをされていたんですね。
もともと高校でインテリアデザイン科に入って、デザインや工業製図といったことをやっていて。その後ファッションをやりたくなって、ロンドンに留学し、その後、ファインアートや現代美術に出会いました。建築、ファッション、絵画とやってきてどんどん考える物体は小さくなっているんですけど、振り返るとずっと私、空間の問題を考えていることに気づいたんです。建築のときは家の中、都市空間について考えていました。ファッションをやっているときに気づいたのは、服を着ていても自分が服を着たら自分が一番見えていない、ということで。その人を見る大衆や、その人の歩く空間のデザインをしているんではないかと気付きました。そして、絵画ですね。絵画の特性として、遠近法とか、三次元とか。宇宙空間が描かれていたりとか、空間としては一番広い空間を扱っているんじゃないか、と考えています。
自分が空間に向き合っていると気づかれたのは、いつぐらいからだったのでしょうか。
修士のころぐらいだったかと思うんですけど、本当に美術をやっていくのか、と考えていて。海外のことや、歴史のことを勉強していくうちに、これまで絵画として読んでいたものが、実は空間だということに気づいたんです。その気付きによって、自由度が上がっていくという感覚があって。若いときからずっと自由になりたいって言ってたんですけど(笑)。ビデオやインスタレーション、立体、ドローイングといった分け方をするのも、自分の自由度を上げるためというか。絵画をやっていると、ずっと家の中にいなきゃいけない、アトリエにがんじがらめといったイメージがありますが、外のいろんな景色から影響を受けたりすることもあると思います。私、白色が気になって南米を旅したこともあるんですけど、そのときもスケッチばかりというより、ビデオを撮ったり、写真を撮ったり、絵という形で縛られないようにしています。
ご自身の探究心に対してとても素直な方だと感じました。國久さんの今後の展望をお伺いしたいです。
いろいろな国でパフォーマンスや滞在制作をしたいですね。こうやって身体を使って円を描いているんですけど、それを見てどのような解釈が行われるのか、その違いが面白いなと思っていて。一回イタリアに行ったときに、ジョット(註・13世紀末〜14世紀初頭、フィレンツェ出身の画家)みたいって言われて…。ジョットは宗教画を描いているんですけど、イタリアの人が口々に言ってくるんです。日本では「具体だ」と言われるのに…。それが面白くて、例えばアフリカでやったり、南米でやったり、アメリカでやったりしたらもっと違うことがあるのかなって考えています。
最後にこれから応募しようと思っている方へのメッセージをお願いいたします。
学生の方でも気軽にチャレンジしてみる場所としてはすごくいいと思いますし、まずは一回業界を覗いてみるということ。嫌だったら、もうちょっと違う感じでやろう、とか(笑)。迷いもあるような状況でも、気軽に応募してほしいと思います。今でも最初にスピーチをしたときのことを覚えていて。ギャラリーの人が30人以上も前にいて圧倒されている中、ベテランのアーティストの人たちに優しく声を掛けていただいたことを今でも覚えています。コンペにも様々なスタイルや良さがあると思いますが、神戸アートマルシェのコンペはとてもアットホームだと思います。
「第22回岡本太郎現代芸術賞」や「咲くやこの花賞」など、様々なコンペを受賞されてきた國久さんだからこそ、よりそれぞれのコンペの違いを感じられているのかと思います。本日はお時間ありがとうございました。

ARTIST PROFILE

國久 真有さん

大阪生まれ。関西を中心に活動。ロンドン芸術大学セントラルセイントマーチンズで学び、神戸芸術工科大学大学院芸術工学研究科芸術工学専攻博士後期課程満期退学。近年は、人体を軸にし腕のストロークと遠心力を利用し描く手法を利用したWIT-WITシリーズという絵画を制作している。絵画(四角い平面)は何次元ものことを平面に取り込めるという特性があり、この絵画シリーズは、(ひとつの)結果としての四角い平面絵画である。19年「第22回岡本太郎現代芸術賞」特別賞、22年「咲くやこの花賞(美術部門)」受賞など。国内外での個展、グループ展に多数参加。

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