「KOBE ART MARCHÉ」と同時開催される公募展「Artist meets Art Fair」は、若手アーティストの新たなステージへの挑戦を後押しするプログラムとして開催を重ね、多くのアーティストが、神戸から広いアートマーケットの世界へと羽ばたいていきました。
本記事では、「Artist meets Art Fair」入選者たちが、当時どんな思いで応募に踏み出し、そして、その後どのような道を歩んでいるのかをご紹介していきます。
今回は、2025年開催の第10回 「Artist meets Art Fair」ミッドキャリア枠で入選された中谷 ゆうこさんにお話を伺いました。
応募に至った背景、入選作について、そして応募を検討している方へのメッセージなど、さまざまなお話をお聞きしました。
- 応募のきっかけは何でしたか?
- これまでさまざまな公募展に応募してきましたが、情報源は主にInstagramやFacebookです。
今回の「Artist meets Art Fair」には「ミッドキャリア枠」という部門があり、これがとても珍しくて、「あれ?これはどういう枠なんだろう?」と興味を惹かれました。
若手の発掘が目的の公募展は多いですが、中堅層を対象にした枠はあまりなく、「こういう機会があるのはいいな」と感じました。
また、「Artist meets Art Fair」は応募の仕組みがとても親切だと感じました。
特に印象的だったのは、作品画像を送る際に、正面だけでなく斜めや少し離れた角度から撮影した写真も提出できたことです。
平面作品だと背景を切り取った正面写真だけ、という募集が多いのですが、それでは質感やディテールが伝わりにくい。
私の作品は、見る角度によって印象が大きく変わるので、「きちんと見ようとしてくれているな」と思えて嬉しかったです。
- 入選の知らせを受けた際のお気持ちはいかがでしたか?
- 入選の知らせを受け取ったときは、正直とても驚きました。「え、本当に通ったの?」という感じで(笑)。
でもすぐに「大阪万博も近いし、神戸に行こう!」と気持ちを切り替えて、宿を取らなきゃ、とバタバタし始めました。
いままで神戸で発表する機会がなかったので、アートフェアをきっかけに行けたこと自体も嬉しかったです。
会場は、思っていたよりもコンパクトで、作品との距離がとても近い印象を受けました。
- 入選作品について、コンセプトや制作時の思いを教えていただけますか?特に「くうきのてざわり ひかりのおもさ」はとても大きな作品ですね。
- この作品は、100号のキャンバスを2枚つなげたもので、縦260cm、横162cmのキャンバスを2枚並べています。
アトリエの天井が低く、縦に立てて描けなかったので、横に寝かせた状態で制作しました。
完成してから実際に立てかけてみたとき、「あ、うまくいったな」と感じたんです。
全国を巡回した伊那谷展の際に制作したもので、当初は「3m50cmまでの作品を2点」と依頼されたと思っていたので、1人あたり7mほどの壁面があると思って描き始めたのですが、実は3m50cmまでのスペースに2点だったと後からわかって(笑)、急きょ縦構成に変更しました。
縦方向の制限はなかったので、結果的にとても大きな作品になりました。
私がこの作品で表現したかったのは、“空気や光”のように、目には見えないけれど確かに存在するものです。
平面の作品ではありますが、ただの「面」として終わらせたくない。
見る人の立ち位置や光の加減によって、前に出てきたり、奥へ引いていったり――そんな“揺らぎ”のような存在になれたらと思っています。
以前はインスタレーションも制作していたのですが、今は“平面でありながらインスタレーションのように感じられる展示”を意識しています。
作品の前に立ったとき、空気の層のような“もわっとしたもの”を感じてもらえるような、包み込むような空間をつくりたい。
大きな作品ほどその感覚が強くなり、作品の中に観る人が入り込んで、初めて完成する――そんな思いでこの作品を制作しました。
- 展示会期中、印象に残ったことはありますか?
- 会場の空間や場所を事前にもっと把握しておけばよかったと思いました。
私は比較的大きい作品で挑んでしまったので、もっと小さな作品を飾り、余白を活かす展示にすればよかったな、と。
同じ入選アーティストの北村さんは、展示空間をしっかり計算していて、小ぶりの作品を使って空間に余白を生み出していました。
会場では他の入選アーティストさんたちと交流できたのがとても楽しかったです。
過去の展示写真を見て、広い空間のように感じてしまいましたが、実際に会場に立つと作品と観客の距離感や空間の響きがよく分かりました。
こうした経験は、制作や展示を考えるうえでとても貴重な時間でした。
- 今後の制作について、どのような展望をお持ちでしょうか?
- 2026年1月には愛知で個展を予定しており、秋にはブリュッセルでも個展を開催します。こうした活動を控えていることもあり、制作意欲がますます湧いてきました。「あとは描くしかない」という気持ちで、迷いなく制作に向き合える状態です。
自分の方向性がよりはっきりと見えてきた感覚もあります。これまでは抽象的な表現が多かったのですが、今後はさらに本質的で、「祝福」に通じるような感覚──誕生そのものが祝福されているというイメージ──を描きたいと思っています。
具体的には、うまれたての子供の顔や存在をフックにして「空気感」を描き、その場にあるものを根源的に善ととらえ、性善説的に祝福されているものを表現していく予定です。作品はよりミニマルに、抽象的になっていくでしょう。生まれる前の状態に立ち戻るような感覚で、色は大きく語らず、真空の中で静かに残るような表現を目指しています。
描いた後に削ぎ落としていくプロセスも行っており、最終的には温かい空気だけが残る展示にしたいと思っています。根源的なもの、命に関わることを追求する制作です。胎内宇宙は外の宇宙とつながっており、最も守られている体験を描くことで、観る人が直接思い出さなくても感じられるような作品を目指しています。
- 最後に、応募を検討しているアーティストの方へメッセージをお願いします。
- アーティストにとっては、公募展はすごく良い機会だと思います。
応募期限があることで目標をつくりやすく、結果として自分の制作進行にもメリハリがつきます。遠い目標は漠然と持っていても、たとえば「山登りで何合目まで登る」というような、とりあえずの具体的な目標があると、毎日の制作にも取り組みやすくなります。
個展の準備のような長期的な目標に向けて毎日努力するのは大変ですが、公募展のような近い目標があることで、自分の進歩を確認できるのは良い機会だと思います。
1989年名城大学薬学部卒業。2008ー2012Académie des Beaux-Arts de Watermael-Boitsfort に在籍。ベルギーと愛知県を拠点に活動中。具体的に描いた絵の輪郭を溶かして消す事は、形を成して命になる前の「魂」の状態に戻る事であり、囲まれ限定された色や形を無限へと解き放つ事だと考えている。私たちが作り出した境界を消す事で、すべての物事が自由になれるのだ。宇宙は胎内とつながり、誰もがうまれる前のひとときをその胎内宇宙ですごした無意識の経験を持つ。私の作品に出合った人が、忘れてしまったそのイメージがふと蘇って暖かな気持ちになってくれたらと思う。

