「KOBE ART MARCHÉ」と同時開催される公募展「Artist meets Art Fair」は、若手アーティストの新たなステージへの挑戦を後押しするプログラムとして開催を重ね、多くのアーティストが、神戸から広いアートマーケットの世界へと羽ばたいていきました。
本記事では、「Artist meets Art Fair」入選者たちが、当時どんな思いで応募に踏み出し、そして、その後どのような道を歩んでいるのかをご紹介していきます。
今回は、2025年開催の第10回 「Artist meets Art Fair」ミッドキャリア枠で入選された北村 隆浩さんにお話を伺いました。
応募に至った背景、入選作について、そして応募を検討している方へのメッセージなど、さまざまなお話をお聞きしました。
- まずは、「Artist meets Art Fair」に応募されたきっかけからお聞かせいただけますか?
- 「Artist meets Art Fair」の存在は、以前から知っていました。
昨年、神奈川県から地元である兵庫県北部・新温泉町へ移住し、家族とともに創作活動の拠点とコーヒー豆の焙煎所を立ち上げました。新しい環境での暮らしを整えながら、個人として彫刻の制作を続けていた時期です。
そんな時に、同じ兵庫県内で開催される「Artist meets Art Fair」のミッドキャリア枠の募集を目にしました。「今の自分の作品を、地元から発信できる良い機会かもしれない」と感じました。
ちょうど新しい環境での活動が少しずつ形になってきた頃でもあり、その流れを作品を通して外へ発信したいと思い、応募を決めました。
- 作品を発表するのにちょうどよいタイミングだったんですね。入選の知らせを受けた際のお気持ちはいかがでしたか?
- 入選の知らせをいただいたときは、素直にとても嬉しかったです。
自分の作品はどこにも属さないような存在だと感じていたので、評価していただけたことにほっとする気持ちもありました。
ただ、すぐに頭の中は作品の選定や運搬、展示の仕方など、「どうすれば、作品の魅力をより良い形で伝えられるか」──そんなことを自然と考えていました。
- これまでの作家活動では、ほかの公募展にも出していましたか?
- これまでもいくつかの公募展や展示に参加してきました。私の制作は、彫刻・工芸・アート・デザインといった枠にとらわれず、素材や形、空間、そして人との関わりを探りながら創作をしています。公募展を通して、イタリア・ミラノサローネでの展示や、世界工芸トリエンナーレへの出展、高岡クラフトコンペティションでの入賞など、さまざまな機会をいただきました。
公募形式のアートフェアに参加するのは、「Artist meets Art Fair」を含め今回で二度目です。公募展は、作品そのものが自ら可能性を広げ、新しい世界へ踏み出していくような感覚があります。その過程を私自身もともに体験できることは、非常に貴重な経験だと感じています。
- 「Artist meets Art Fair」に「ミッドキャリア枠」という応募枠があったことは魅力的に感じられましたか?
- 年齢制限のある公募展は、常に新しい表現が求められる場において、世代を循環させるために必要な仕組みだと感じています。ただ一方で、工芸の世界では、技術や技能の蓄積も作品の重要な軸になるため、必ずしも年齢で区切ることが本質ではないとも思っています。
今回のミッドキャリア枠の入選者の方々、そして自分自身を振り返ってみると、「その年齢になり辿り着けた表現」が確かにあると実感しました。人生の積み重ねが作品の深度に影響していると考えると、この枠には自然と、そうした独自の魅力を持つ作品が集まる可能性があるのではないかと思っています。
- 入選作品について、コンセプトや制作時の思いを教えていただけますか?
- 私の作品は、鹿の角を素材とした彫刻作品です。
日々の中で「彫ること」と「彫らないこと」を自然に意識しており、それはすでに私の生活の一部になっています。
朝の光を浴びて、呼吸し、歩き出す――。そうした日常の中にある、自然で当たり前の行為のように、制作も続いています。
素材と向き合う中で、自分でも気づかないような、自然の中に潜む美しい形をそっと掬い上げたい。
そうした瞬間も含めて、作品は「普通の日々の延長線」にあるのだと感じています。
- 「KOBE ART MARCHÉ」での展示で、印象的な出来事はありますか?
- 会期中は、多くの方にお声をかけていただき、そのひとつひとつが静かな喜びとして心に残りました。
作品を見てくださるその瞬間、私はいつも、作品を介して小さな対話をしているような感覚になります。
言葉に限らず、視線や呼吸、仕草といった細やかな反応のすべてが、作品の新たな表情や輝きを気づかせてくれる――。
そんな時間の積み重ねが、とても印象に残りました。
改めて、作品を通して人と対話することの尊さを強く感じた展示でした。
- 今後の制作について、どのような展望をお持ちでしょうか?
- 日々の暮らしや自然との関わりから生まれる感覚を大切にしながら、これからも作品づくりを続けていきたいと考えています。変わらない日常の積み重ねの中で、自然・自分・作品が静かに結びついていくような、穏やかに育まれる作品を目指しています。
制作の過程では、常に「これは最終的に何になるのだろう」と自分に問いかけ続けています。彫刻や工芸、アート、デザイン、それ以外のさまざまな領域の可能性を探ることも創作の一部であり、可能な限りどのジャンルにも縛られず、その境界を自由に往来できる表現でありたいと思っています。そして、完成した作品が、受け手一人ひとりの感性の中で解釈されていく存在であれば嬉しいです。
今後も国境やジャンルにとらわれず、国内外へ向けて発信できる機会に関わっていきたいと考えています。また、これから暮らす里山の自宅を拠点に素材を採集しながら、作品と人とが静かに出会えるような空間を、ゆっくりと育てていけたらと思っています。
- 最後に、応募を検討しているアーティストの方へメッセージをお願いします。
- 応募しようかどうか迷っている方がいらっしゃるなら、この瞬間に一歩を踏み出すことを選んでほしいと思います。
迷い続ける時間の中では、心はどうしても重くなりがちですけど、一歩を決めた瞬間から、未来に向けて心が静かに動き出します。
想像する時間も、準備を重ねる時間も、すべてが肯定的な経験として積み重なっていきます。
選ぶなら不安ではなく自身がときめく方へと進んで下さい。
1982年兵庫県生まれ。生命の形とは、存在と消滅の狭間に漂っています。形が消え逝く姿に、生命の儚さと力強さを感じるのは、私もその狭間で生きる者としての命が共鳴しているものと感じます。
消え逝く角を通して見える景色から、未来に送る眼差しが慈しみを纏う。そんな自身の命を生活の中に自覚できる骨角器(こっかくき)を表現します。
地元の兵庫県北部は、野生の鹿の数も農作物の被害も年々増えています。時代や環境によって変わる自然と人との距離に答えはなく、それぞれが異なる距離感を持ち共存する里山の中で、作品の素材採集と製作を通して、自然と生活と表現の距離を丁寧に繋ぐ作品制作を行います。

