「KOBE ART MARCHÉ」と同時開催される公募展「Artist meets Art Fair」は、若手アーティストの新たなステージへの挑戦を後押しするプログラムとして開催を重ね、多くのアーティストが、神戸から広いアートマーケットの世界へと羽ばたいていきました。
本記事では、「Artist meets Art Fair」入選者たちが、当時どんな思いで応募に踏み出し、そして、その後どのような道を歩んでいるのかをご紹介していきます。
今回は、2025年開催の第10回 「Artist meets Art Fair」一般枠で最優秀賞を受賞された星詩奈さんにお話を伺いました。応募に至った背景、入選作について、そして応募を検討している方へのメッセージなど、さまざまなお話をお聞きしました。
- 応募のきっかけは何でしたか?
- 新しいギャラリーとの出会いを探していた時期で、様々な公募展をよくチェックしていました。「Artist meets Art Fair」は公募サイトで見つけました。
入選するとアートフェア会場で展示ができ、販売の機会があり、さらにギャラリーとのマッチングもあるという点がとてもユニークでした。アートフェアの会場で公募展を実施し、そこでマッチングまで行われる形式は珍しいと思います。特色が自分に合っているなと感じ、応募することにしました。
普段は大阪で展示することが多かったのですが、京都や神戸、東京といった別の土地でも個展をしてみたいという思いもあり、そうした新しい展開につながるきっかけになればいいなと期待していました。
- 最優秀賞を受賞されました。決まったときの心境について教えて下さい。
- 正直なところ、最優秀賞どころか、入選自体も全く予想していなかったので、ただただ驚きました。まさか自分が選ばれるなんて思ってもいなくて…。
最優秀賞だと、個展形式で展示できるという特典を聞いて、一気に冷静になり「どういった構成の展示にしようか」と考え始めました。ワクワクと、次への準備のことで頭がいっぱいになりましたね。
実際の展示では、合計14点の作品を並べました。制作期間としては、この1〜2年の間に作ったものですね。特に小さな作品は、入選が決まってからの2ヶ月間で、今回の展示のために新たに制作しました。
- 入選作品のコンセプトや、制作時に込めた思い、テーマは何ですか?
- 私の作品は、日頃からアトリエに置いている「箱庭療法用の箱庭」がモチーフになっています。
箱庭療法とは、本来、棚に並べられたフィギュアを自由に選んで箱の中に配置し、それをセラピストや精神科医が観察することで、無意識下の心理状況を読み取るというものです。私自身、大学院の保健室でその体験をしたことがあり、それを絵にしたら面白いのでは、と思ったのがきっかけです。
私の絵には、羊や犬、狼が多く登場します。特に群れをなす羊は人間のありようを表していて、私はその中で「群れをなす羊たち」と「一匹狼」の曖昧な境界線を表現しようとしています。そのために、実物よりも羊を大きく描いたり、犬を介入させたりして、現実にはありえないユーモラスな空間を作り出しています。
私は絵を描くために箱庭を意識的に作っているわけではありません。アトリエにある箱庭は、療法で使うものと同じサイズの箱を特注し、砂も療法用のものを使っています。特に何も考えず、置きたいものを置きたいように配置しています。フィギュアも、市販の療法用ではなく、雑貨屋さんなどで見つけたものを入れています。
その無意識で作られた箱庭の配置を、そのまま作品の登場人物や構図にぶっつけ本番で活かしているんです。もちろん、頭の中には「羊が会話しているように見えたら面白いな」というイメージはありますが、基本的に無意識に置かれたものをそのまま描き出します。
登場人物は少しずつ変化しますが、必ず描かれる「白い三角錐」のような、決まった要素もあります。箱庭の配置は、まったく同じになることはありません。それを写真で記録し、制作記録として残しています。
以前、東京での個展で、知り合いではない箱庭療法を専門とする方が私の作品を見てくださったんです。その方は、「療法用の箱庭をそのまま作品のテーマにしているのは初めて見た」と話していました。私にとって、箱庭は私自身の内面が映し出された、制作の「種」のような存在であり続けています。
- 「KOBE ART MARCHÉ」では、普段のギャラリーとは違うホテルの空間での展示となりました。どのような挑戦がありましたか?
- ホテルという空間に作品を展示するのは初めてだったので、新鮮で、見え方が普段と全く違ったのが面白かったです。正直、事前に予想していた展示通りにできるかと言われると、全く想像できていませんでした。本当にぶっつけ本番で作品を置いてみたという感覚でした。
幸い、光がうまく差し込んでくる部屋だったので、自然光が作品を印象的に見せてくれたと思います。特に、ベッドの上に作品を置いたのは、新しい見せ方として面白かったですね。展示としては成功したと感じています。
また、お風呂場に作品を展示したのも、空間と作品がマッチしていて好評でした。自分一人では思いつかないような、会場ならではの新しい展示の可能性を引き出せたのは、貴重な経験でした。
- 実際に「KOBE ART MARCHÉ2025」で展示してみて、特に印象に残った出来事はありますか?
- 展示期間中、作品が完売したのはもちろん驚きましたが、それ以上に印象に残っているのは、美術関係者ではない一般のお客様の感想ですね。想像以上に多くの方が来場されていて、普段の個展では考えられないほどでした。
特に面白かったのが、お子さん連れの方々の反応です。
私の作品は、アトリエにある箱庭と絵の間に「違い」を作ることを一つの狙いにしています。箱庭のフィギュアと、それをモチーフにした絵を比較して、まるで間違い探しのように楽しんでもらえたらと思っていたんです。
大人の来場者は「絵は絵だけで完結している」という印象で見ることが多いのですが、子供たちはダイレクトに絵と箱庭を比べてくれて、「箱庭だと小さいけど、絵だと大きいね!」とか「これ、ここにはないよ!」と、違いをすぐに見つけてくれました。
作家の意図を、言葉で説明しなくても子供のほうが自然と汲み取ってくれるという事実に衝撃を受けました。大人の方々が見えていないわけではないと思いますが、子供たちの純粋な反応がとても新鮮で、心に残りました。
また、来場者の方から積極的に質問されることが非常に多かったです。箱庭療法自体を知らない方や見たことがない方が大半なので、まずジオラマの説明から入ったり。意外なことに、自分が「これが良い」と思っていた作品と、見てくださる方が「良いな」と感じる作品が違ったりもしました。中には、「世界で起きている不況なことを表しているんですか?」と深読みされる方もいて、作品の解釈の幅広さに驚きました。
- 「Artist meets Art Fair」はギャラリーとのマッチングも魅力です。その後の展開について教えてください。
- 正直、応募前は「本当にマッチングなんてできるのかな?」という漠然とした不安がありました。でも、会期後にたくさんマッチング希望のオファーをいただいたときは、「本当にマッチングするんだ!」と心から嬉しかったです。これまでは、漠然と自分でギャラリーを探して展示をするというスタイルだったので、この機会に一気にマッチングが実現できたのは、本当に大きなメリットでした。
現在、いくつかのギャラリーとやり取りを続けています。ギャラリー側のタイミングもありますから、中には「来年はもう予定が埋まっているから、再来年に個展をやりましょう!」と、具体的に話を進めているところもあります。
こんなに多くの作品が売れて評価されることはなかったので、展示が終わった後はしばらく現実離れしていて、夢のようでした。ぽかーんとしてしまうほど、衝撃的な経験でしたね。
- 今後の制作について、どのような展望をお持ちでしょうか?
- 直近1年は個展という「発表」よりも、「制作」に専念する期間にしたいと考えています。
再来年に予定している個展では、たくさんの新作から厳選して展示したいので、じっくりと作品をブラッシュアップする時間が必要だと思っています。まずは描くことに集中し、再来年の個展で手応えをしっかりと感じた上で、その後もつながりがあれば、アートフェアにも作品を出していきたいと考えています。
今回の受賞を通して、自分自身の改善点も見えてきました。作品のコンセプトやモチーフは変わりませんが、特に物語性をより深めたいと思っています。「Artist meets Art Fair」の受賞作品では、生物同士の関係性や会話が伝わる物語性をうまく表現できたと感じています。
描き続けることで、構図や作品の深みをより意識できるようになり、それは手を動かし続けなければ見えてこないものだと実感しています。
- 最後に、応募を検討しているアーティストの方へメッセージをお願いします。
- 実際に参加してみて、作家との出会いを求めているギャラリーが意外と多くいるんだな、と感じました。ただ、その間をつなぐものが不足しているのが現状だと思います。この公募展は、その意味でとても貴重な機会です。
「キャリアがないから」と気にして応募をためらっている方も多いと思いますが、作品がよかったら展示経験が少なくても通るかもしれません。
公募展に慣れていない方でも、スタッフさんがいろいろと手伝ってくれるので、不安な点があっても大丈夫です。何も考えず、まずは気軽に応募してみてはいかがでしょうか。
「Artist meets Art Fair」は、入選して終わりの公募展ではありません。入選してからがスタートです。ギャラリーによっては海外のアートフェアに出しているところもあるので、新しいステージにいきたい方は奮って応募してみてください!
1991年福井県生まれ。2016年愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画・版画領域修了。箱庭という小さな世界の中に、光と影、物と物の関係が織りなす微細な変化を描く。第10回「Artist meets Art Fair」では最優秀賞を受賞。

