KOBE ART MARCHE

Asahi Sakurai meets KOBE ART MARCHEAsahi Sakurai meets KOBE ART MARCHE

「KOBE ART MARCHÉ」と同時開催される公募展「Artist meets Art Fair」は、若手アーティストの新たなステージへの挑戦を後押しするプログラムとして開催を重ね、多くのアーティストが、神戸から広いアートマーケットの世界へと羽ばたいていきました。
今回は、2025年開催の第10回「Artist meets Art Fair」一般枠で入選した桜井旭さんにお話を伺いました。応募の背景や入選作品について、そしてこれから挑戦するアーティストへのメッセージまで、幅広くお聞きしました。

Asahi Sakurai meets KOBE ART MARCHEAsahi Sakurai meets KOBE ART MARCHE

応募のきっかけは何でしたか?
私が学部4年か修士1年のころ、当時博士課程の先輩が「Artist meets Art Fair」に入選していたことをきっかけに、この公募展について知りました。その先輩が「KOBE ART MARCHÉ」出展ギャラリーで個展をされたり、海外のアートフェアに出たりと活躍されているのをずっと見ていて、「すごいな」と思っていました。

私はそれまで、金沢での展示が中心で、コマーシャルギャラリーとの接点はあまりありませんでした。「ギャラリーとどうつながればいいかわからない」という状況だったので、「Artist meets Art Fair」に応募することが挑戦のきっかけになりました。
いままでに何度か応募されたのですか?
今まで何度か応募していて、3度目の挑戦で今回入選しました。

学生の間はまだ作風が固まっておらず、毎回まったく違うテイストで応募していました。作品を3点応募することができたので、あえて全部違うタイプの作品を出したこともあります。大きなサイズを出してみたり、実験的に試してみたりと、「Artist meets Art Fair」は'挑戦の場'という気持ちが強かったです。

正直、今回も「受からないだろうな」と思っていたのですが(笑)、最近はコンセプトやテーマがしっかり定まってきていて、それを表現できる作品を出せたと思います。
ステートメントも以前より明確になり、その時々に合わせてアレンジできるようになってきました。
ステートメントにもこだわりがあるそうですね。
はい。ステートメントは詩的ではなく、理論的で客観的にわかりやすい文章になるよう心がけています。
感覚で書くよりも、数学の完璧な数式を組み立てるように構築する感覚に近いです。

以前はコンセプトが定まらず、何を目指しているのか曖昧でした。でも、アーティスト・イン・レジデンスなどで“現場で描く”経験を重ねるうちに、やりたいことが研ぎ澄まされ、端的に伝えられるようになってきたと思います。
入選の知らせを受けた際のお気持ちはいかがでしたか?
正直、まったく期待していなかったんです(笑)。
「今年もきたか」と思って、とりあえず応募しようと。締め切りの3分前、ギリギリに提出しました。
まさか入選するとは思っていなかったので、本当に驚きました。

応募したのは、自分の中でブラッシュアップしてきた作品でした。だからこそ、入選のお知らせをもらったときは「ちゃんとステートメントを読んでくれていたんだな」と感じて嬉しかったです。

特に、学芸員の方からコメントをいただいたのが印象的でした。審査コメントに「今後の展開が楽しみ」と書かれていて、まさにそれは自分のコンセプトの核でもあったので、共感してもらえたのが特に嬉しかったですね。
入選作品について教えてください。
入選した作品は、フィンランド・ヘルシンキで制作した油絵です。私は普段から「現場で描く」ことを大切にしており、制作する場所や環境によって作品のあり方が変化していきます。

今回は、マイラーフィルムというプラスチック製の支持体に油絵を描きました。
マイラーフィルムは、アメリカのGrafix社製で、乾きが早く、持ち運びに適しています。ヘルシンキでは丸めた状態で持参し、ベニヤ板に貼って描きました。帰国時にはまだ乾ききっていない状態でスーツケースに入れたため、絵の具同士がくっついてしまいましたが、それを面白い現象として受け入れました。

私は、制作の過程で起こる予期せぬ出来事、所謂ハプニングを作品の一部として積極的に取り入れています。予測できない現場ならではの変化を、表現に生かすことを大切にしています。

こうした現象を私は「崩壊(Collapse)」と名付けていますが、これは決してネガティブな意味ではありません。アトリエで完璧に描くよりも、雨や風、人との関わりなどによって作品が変化していくことに、より強いリアリティがあると感じています。

そして、このように多方向から同時に存在する現実を、私は「多元的現実性(Pluralistic Reality)」と呼んでいます。狙って起こすのではなく、毎回異なる偶発性に身を委ねること。その予測できなさこそが、制作の面白さだと思っています。
展示会期中、印象に残ったことはありますか?
初めて作品を見に来てくださった方が、第一印象ですごく喜んでくれた瞬間が印象に残っています。

会場では購入を迷われている方も多く、私自身は「本当に作品が売買される場なんだ」と驚きました。普段は展示した作品に値段をつけて販売することもありますし、ZINEなどのグッズ販売も行っていますが、いつもの即売会とはまた違う空気感でした。

「KOBE ART MARCHÉ」では、比較的ご年配の方も多く訪れていて、いつものイベントより幅広い年代の方々に見てもらえたのも嬉しかったです。お客さんと作品について話す時間は、とても楽しく感じました。

例えば、町並みを描いた作品では、看板や張り紙に描かれた文字に注目して「面白い」と言ってもらえたり、作品の中に隠れた猫を「ウォーリーを探せ」みたいに楽しそうに探してくれる方もいました。こうした遊び心は狙って入れていて、描いた町の中に入り込みたくなるような感覚や、世界をのぞきたくなるような気持ちを味わってほしいと思いながら制作しています。猫や魚などの小さなネタも、単に描くだけでなく作品の“フレーバー”として加えています。
今後の活動について教えてください。
来年の展示予定が少しずつ埋まってきています。

東京、金沢、沖縄・那覇など各地で展示が決まっており、那覇では財団関係の友人と一緒に企画展を行う予定です。

今後は、海外のアーティスト・イン・レジデンスにも挑戦していきたいと考えています。国内だけでなく、海外のマーケットでの評価も得ていきたいです。
日本から発信するだけでなく、“逆輸入”的なかたちで認められていく流れが、自分には合っているかもしれないと考えています。

作品づくりの課題としては、「日本人としての表現」をどう伝えていくか、です。油絵だけでは伝わりづらい部分もあるかもしれません。
そこで、現在は、日本鹿の皮を使った平面作品の制作にも取り組んでいます。
この素材を使って表現しているアーティストは世界的にもほとんどいないと思いますし、日本の社会的な課題を作品に昇華していくことが、自分の強みになると感じています。

今後も、国内での発表を続けながら、海外にも活動を広げていきたいと思っています。
最後に、応募を検討しているアーティストへメッセージをお願いします。
応募自体は決して難しいものではありませんので、まずは気軽に挑戦していただきたいと思います。もちろん、結果として思うような評価が得られないこともあるかもしれませんが、落選したからといって何かが終わるわけではありません(笑)。大切なのは、チャンスが巡ってくる可能性を増やすことです。

アートマーケットに限らず、芸術祭やさまざまな関係者も作品を見に来てくださいます。応募することで失うものはほとんどなく、新たな出会いやつながりを得るきっかけとなります。気になったらまず応募してみること。そこから、自分の活動の幅が自然と広がっていくはずです。

みなさん、ぜひ頑張ってください!

ARTIST PROFILE

桜井 旭 さん

1996年兵庫県明石市生まれ。2025年金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科博士後期課程絵画分野卒業。主に油彩を用いて現場での対象観察を徹底した絵画制作をしている。目の前の現実を従来の絵画形式や様式を用いて絵画空間へと還元するだけではなく、現場毎に固有な環境や人からの影響をも「崩壊」として絵画表現に享受することで、「多元的現実性」の表現を探る。「崩壊」を契機としたこうした実践過程を経て、盲目的な首尾一貫性を回避し、偶発性あるいは予測不可能性を意識化し、受け入れることで新しい絵画表現の可能性を追求している。

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