KOBE ART MARCHE

EIJI MIWA meets KOBE ART MARCHEEIJI MIWA meets KOBE ART MARCHE

神戸アートマルシェに合わせて開催される、若手アーティストのアートマーケットの活躍を後押しする公募展「Artist meets Art Fair」。これまで多くの方が、神戸の街から広いアートマーケットの世界へと旅立ってきました。本連載「Stories After Art Fair」では、Artist meets Art Fairの過去の受賞者のその後の活動の様子や、当時の思いについてお伺いします。第2回はアーティストの三輪瑛士さんです。

今日はよろしくお願いします。最初に今回の公募展の応募のきっかけをお伺いできればと思います。
よろしくお願いします。この「Artist meets Art Fair」に応募する前から、在学中はいろいろなコンペに応募をしていました。そんな中、知り合いのギャラリーの方が「Artist meets Art Fair」の情報をシェアしていたことが公募展を知ったきっかけです。内容をよく見ると、入選すれば、ではありますが、アートフェアが行われている場で作品が展示され、しかもその場で購入も出来るといった内容で、当時の僕は専属のギャラリーもなかったですし、そもそも”つて”も全然ない状況だったので、とてもいい機会だなと思い応募しました。
ご自身の作品が販売されたり、アートフェアの現場で出展出来ることに魅力を感じていただいたと。
そうですね。ほかのコンペとは違うなと感じました。
ありがとうございます!ちなみにご応募いただいた当時(2018年)は大学院生の頃でしょうか?ご応募の際の心境をぜひ教えてください。
当時は博士課程に進んで、博士の1年ぐらいだったかと思います。いろいろなコンペに応募していて、力試しというより、早く作家として活動したいと思う気持ちがありました。そのためにはまず、ギャラリーに売り込みをするという手段もあると思うのですが、あまりそれをしたいと思っていなかったので、それならひたすらコンペに出すしかない、と思っていましたね。
たしかにギャラリーに売り込みに行くって、とても勇気がいりますよね。そういった思いの中で応募され、入選されました。入選したときの心境はいかがでしたか?
その時応募した作品が、自分の普段の制作の中でもかなり…、まあいつもそうではあるのですが、実験的なもので。さらに、一回描いた絵画をバラバラにして、また組み直して…というトリッキーなことをした作品だったんですが、それが入選したので、「これでいいんだ!」と思いましたね。受け入れてもらえた、というと変な言い方かもしれないですが、アートフェアという売買に直結する場においても、こうした挑戦的な作品を受け入れてくださることに驚きを感じました。
実験的、とおっしゃっていましたが、ぜひ入選作についてお伺いさせてください。
僕は視覚について研究をしているのですが、視覚というものは基本的に、全体を把握したり、細部を注視したりなど、いろんな尺度や場面、位置に対して連続的に働くものだと考えていて。その中で、ある一定時間の中で集められた情報を脳の中で整理して、例えば「これは人間の顔である」とか、類別や意味付けというものをしていると思っています。その中で、僕は、写実画は、「もののあるがまま、対象そのもの」を描くことだと考えているんですが、「ものを見る目そのもの」を描きたいと思っていて。ものを見ているときって、実際にはもっと整理されていないんじゃないかと。それを描いたときに、そのイメージが現れるのではないかと考えました。そういったことを念頭に制作をしていたのですが、ある時、逆の発想で、あるがままに写実的に一旦描いて、それを自分の視覚的な実感に合わせて再構築して、さらにこれが何であるかを意味づけ、補完しようとする自分の働きを筆の動きで描いてみたらどうなるか。曖昧な言葉ではありますが、それを実践してみた作品です。
このシリーズ、作風は続いたのですか?
この制作手法は、2、3点ぐらいで辞めてしまって。というのも、やり方に限りが見えてしまって、自由度が狭かったからです。でも完成度は出しやすかったので、これを超える作品がしばらく作れないといったことはありました。
見たままのことを描く、というのはある意味普遍的ですが、でも実際にそれをすることは難しい、ということがあると思います。どうしてそこに目をつけたのでしょうか?
「見たままに描く」とよく言いますが、その言葉がいわゆる写実表現と繋がれちゃっている。実際には意味合い的にはぜんぜん違うと思っています。写実は対象の客観性であることに対してで、見たままに描くというのは観察者である作家側の見方の話なので。であれば、観察者である僕が見たままに表現するにはどうしたらいいのかと考えたのがはじまりでした。しかしそのための参考材料や資料、こうしたらいいよ、というものが全然なくて。写実的に描くことでそれを解消しようとする道もあると思うのですが、やっぱり自分の見ている実感としてはそんな風にはならないと思っていて。
実験的な作品だとお伺いしましたが、実験しようと思って実験的になったのか、それともたまたま実験的なものになったのでしょうか。
普段から変わりなくやっていることの延長という感じですね。ただ、普段は1枚のキャンバスの中でどう描くか、ということをやっているので、そういう面では思い切った作品ではありました。
この実験というか、作品を作り上げていくのにどれぐらいの時間や、時間以外の思いなどがあったのでしょうか。
制作にかかる時間はそれぞれで…、だいたい半月ほどあれば完成するかな、というのはありますが、作品によっては一通り書いて数ヶ月放置するといったこともあります。あとはどの作品もそうなんですが、描く時間より考える時間が長い、というのがありますね。また、ちゃんと考えた作品が評価をしていただけるという実感もあります。入選作品に関しては、その点でいえばかなり考え抜いた作品でした。
考えることも創作の一部なのですね。作品を制作されるときはどのようなことを考えられていますか?
絵を描かない方だと、絵の具で描いている時間だけが制作時間のように考えられることもあるかと思いますが、考える時間も含めて制作だと思っています。僕の場合は、下書きやドローイングも一切なしで、ぶっつけ本番で描くタイプなんですけど、描いていく上で予めコンセプトやテーマはあるのですが、描いてみてもっと「こういう構成にしよう」とかじっくり考えるようにしていて、そうやってどんどん変化していく感じですね。最初に思い描いたイメージとはぜんぜん異なる様相になることが多いです。
受賞後は、その後の作家活動になにか変化はありましたか?
このコンペの仕組みとして、ギャラリーとの関係を築く、というものがありますよね。僕はこのコンペ入選後に、アートギャラリーと関係を持つことになったのですが、そこから一気に変化があったと感じています。ご縁をいただいたギャラリーは、国内外での展示に力を入れられていたので、百貨店やアートフェアで展示をしたりとかで一気に活動の場が広がっていきました。もちろん展示をしていただけるのは入選後の自分の頑張り次第ではあるのですが…、期待に応えようと思っていい作品を描いて展示してもらおうという気持ちで、今では様々な場所で展示ができるようになりました。
受賞されると、アートフェアの会場での展示があり、作家の方も在廊されます。その時のことは覚えていますか?
はい。入選した時はアートフェアで展示するということ自体が初めてで。来場される皆さんの中にはアートコレクターの方も多いので、見方が違うと感じました。普段のギャラリーやコンペでの展示とはまた違った感覚がありましたね。
たしかに多くの作家の方にとっては初めてのアートフェアになると思います。実際に作品を購入される方が来る、というのはまた違う感覚になりますよね。
多くのコレクターの方と出会える経験はとても貴重でした。当時在廊していた際に出会ったコレクターさんがいたのですが、その方とはアートフェア後も長くお付き合いさせていただくような関係になりました。その方は、もともと作品をたくさんご購入される方ではなかったようなのですが、最近になって自分の作品をお渡しする機会がありました。その場のやりとりだけでなく、その後にもつながっていくような関係性を築く場所でもあったと感じています。
コレクターの方と出会う機会は作家の方にも励みになる機会ですよね。三輪さんは現在、雑誌などでも取り上げられ、様々なご活躍をされているかと思います。何か今後やってみたいことや、目標にしていることはありますか?
最近まであまり、目標とかは考えていなかったのですが。このコンペの応募時も、実験的な作品を出そうと思っていましたし、その調子でこれまでずっと実験的なことをやってきたと考えています。一方で、世の作家さんたちは自分のアイコンとなるモチーフや表現を持っているなとも感じていて。自分のアイコンとなるような何かを築けるようになれば、と考えることもあります。もちろん何か無理やりに、焦って、というわけではないですが。襟を正すということではないんですけど、いかに作家として自分をアピールしていくか、という考えのもとで活動をする考えもあるのかなと思っています。
アイコニックな作品をつくること、とても難しいことかと思います。一方で、失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、アイコニックなものがないところも、三輪さんらしさなのかと感じました。
コレクターというほどではないですが、自分も絵を購入することがあるので、人の作品とかを買う側の視点で見ることもあるんですね。その視点で、自分のこれまでの活動を見直したときに、安心感に欠け過ぎているというか、全然期待に応える気のない作家だなあと思うことがあります(笑)。そうなるともう少し一貫性がほしいなと。それに日頃の作品作りでも鑑賞者にとってどう見えるか、どのように受け取ってもらえるかを考えていて、それの延長線上だと思っているので、急に何かに寄せようといったことではないと思っています。それぞれの作家のやり方でやっていければいいなと。
率直な思いを聞かせていただいてありがとうございます。最後に、応募を考えている方へぜひメッセージをいただければと思います。
はい。このコンペに応募しようと考えている人は、おそらく皆さん作家としてやっていくという気概がある方だと思います。であれば、間違いなく、もちろん入選さえすればですが、大きな一歩になるコンペだと思います。ただ入選しても、その先にはまだ試されていく、作家としてやっていくぞという意気込みは必要で。そういった色々なことを考えながら応募してみてほしいですね。入選を目的にコンペに応募するのではなく、応募する時点で作家としてやっていくという心持ちで応募してみてもいいんじゃないか、と思いますね。
ありがとうございます。入選して終わりではなく、入選してからがむしろスタートぐらいの気持ちで応募いただければと思います。本日はありがとうございました。

ARTIST PROFILE

三輪 瑛士さん

1993年愛知県名古屋市生まれ。2018年金沢美術工芸大学大学院絵画専攻 修了、2021年金沢美術工芸大学大学院博士過程 満期退学。「見たものを見えたままに描く」という目的から端を発し、現在は視覚情報の受容及び処理過程の絵画表現や、現代技術によって拡張される観察描写という行為、対象となる情報と観察者の多様な意味での”距離”について研究をしています。

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