
「KOBE ART MARCHÉ」(KAM)では、次世代を担うアーティストの発掘と支援を目的とした公募展「Artist meets Art Fair」を開催しています。公募展の入選者には「KOBE ART MARCHÉ」会場内での展示や、今後の発表の場を設けるきっかけとなる出展ギャラリーとのマッチングといった特典があります。多くのアーティストがこの公募展の入選をきっかけに、その後のさまざまなアーティスト活動へとつなげています。
今回の「Stories After Art Fair」では、2024年の第9回「Artist meets Art Fair」のミッドキャリア枠で入選した出口朝子さんとマッチングしたhide galleryディレクターの石田花奈さん、蘭二朗さんとマッチングした銀座画廊 美の起原ディレクターの家中純子さんに、それぞれを選んだ理由や、アーティストとの向き合い方についてお聞きしました。

- 公募展「Artist meets Art Fair」で、なぜ出口朝子さんを選ばれたのでしょうか?
- 入選作家の中でも作品の余白の使い方が上手くて、描いていない部分にも意識が向けられているのがいいと感じました。また作品タイトルや一緒に添えられたテキストを読むと、身体性や直感的な感覚を意識していることが書かれていました。私たちのギャラリーにはそういう傾向の作家さんが自然と集まっているので、きっと合いそうだなと。
- まずは作品とギャラリーがマッチングしたということですね。KAM2024では出口さんともお話されたのでしょうか?
- その場では過去の図録を拝見して、一言二言お話したくらいです。その後、出口さんのウェブサイトで日記のような文章を見つけて、詩的な言葉を紡ぐ方だと思いました。そうして出口さんご本人についても理解を深め、お声掛けをさせていただきました。


- その後の出口さんとのやりとりはどういったものだったのでしょうか?
- 4月にhide galleryで出口さんの個展が予定されています。天井が高く、自然光の入る大きなガラス窓などが特徴的な空間のギャラリーでの展示について、石田さんが相談にのってくれたと出口さんが以前のインタビューで話をされていました。
出口さんは、今まで空間込みでの展示を考えることがなかったそうで、今度の個展はチャレンジだとおっしゃいます。マッチング後、まずは移転したばかりのギャラリーに来ていただき、空間を見てもらいました。ただ、ホワイトキューブの環境では展示のイメージが湧きづらく、悩まれていたようで。それをお聞きした際に、ちょうど吉田紳平さんの個展で絵画が掛かっていたので、一緒に展示空間を見て相談しましょうとお誘いしました。吉田さんは空間込みで展示を構成される方で、出口さんも興味を持たれて学びがあったと思っています。こうして相談してくれるのは信頼してくださっているからだと、私たちも卒直な意見をお伝えしています。

- KAM2024の後、台北のART IJ 2024、金沢のKOGEI Art Fair Kanazawa 2024の2つのアートフェアでhide galleryから出口さんの作品を紹介されています。海外での反応はいかがでしょうか。
- 出口さんは生活する中での空気感や思い出を、具体的な物に落とし込むのでなく抽象的に描かれているので、国を超えても伝わるようです。それは出口さんの作品の強みだと感じました。
台湾はきらびやかでかわいらしいものが人気だと聞いていて、出口さんの色を抑えた作品が受け入れられるかと不安な気持ちがありました。でも予想に反し、私達のプレゼンテー ションを台湾の方が受け取ってくださっていて、「届いているよ、出口さん!」と。

- 「Artist meets Art Fair」と他の場所でのアーティストとの出会い方の違いについて教えてください。
- 「Artist meets Art Fair」の入選作家はアートマーケットに出たいと考えているので、一緒に仕事する上での齟齬が少ないと思います。淡々と活動している作家さんにもアプローチすることはありますが、0からコミュニケーションを取る必要があるのに対して、アートマーケットへの共通認識があるのでスムーズなのかなと考えています。
- ミッドキャリア枠についてはいかがでしょうか?
- 出口さんをミッドキャリア枠という観点では選んではいませんが、若い方はいい意味で感受性が豊かで変化が大きいので、安定的に仕事をするには苦戦するかもしれないと、人から言われたことがあります。そういう意味で、ミッドキャリア枠の入選作家は自分自身の表現を何度も反芻してきているので仕事しやすいと思います。
- KAM後のギャラリーとアーティストとの貴重なやりとりについてお話しいただきありがとうございました。4月の出口さんの空間を意識した個展を楽しみにしています。

- KAM2024で蘭二朗さんとお話しした時の印象はいかがでしたか?
- 初めて会った時から自分の作品について気負いなく話していて、器の大きさを感じました。若いアーティストは一生懸命なあまり説明的になりますが、蘭さんは確固とした信念があるからこそ自然体だったのだと思います。
それで気になって蘭さんのことを調べてみると、チェーンソーアートのコンペで大賞を取っているのをWebで見つけました。あ、やっぱりと。こんな技術の高いアーティストが入ってきたら、他の方が困るだろうなというような出来栄えの作品でした。
ただKAM2024では大きな作品が多く、うちの画廊では展示することができないと当初は考えていました。でもその後にやりとりした際に小さい作品も作ってみますと言って、すぐにサンプルの作品の写真を送ってくれました。


- グループ展「Ginza 1 to 8 ~アート銀座188 Exhibition by 3 galleries」に出品された作品もチェーンソーで制作されているそうですね。
- 顔の部分は鑿(ノミ)を使いますが、基本的にはチェーンソーとドリルを使用しているそうです。それでこんなに木を薄く削ることができるのは、技術レベルの高さゆえだと思います。「巨大なチェーンソーではないです」と謙遜されますが、はたから見ると十分大きなチェーンソーで、それが当たり前のようです。
グループ展の出品作では、木彫の背景をレジン(樹脂)で表現していて、木漏れ日のような光が通る彫刻という彼のコンセプトがよく伝わります。自宅の窓辺から差し込んだ朝の木漏れ日が綺麗に作品に映るとご本人も言っていますが、これによってさらに可能性が出てきたと思っています。照明を当てても、外光が入るところに置いても素敵な作品です。
- KAM2024での展示から随分と変化されていますね。
- KAM2024後に百貨店やギャラリーで展示したことで、小品の需要性を認識すると同時に新しいことにも積極的に取り組んでいるようです。グループ展のテーマが「銀座」と「近代」で、後から追加になった「近代」はできる人がいればいい位に考えていたのですが、蘭さんは両方に挑戦してくれました。
- 展示している作品を見ても意欲的に制作されていることが伝わります。
- 制作に関する情報をキャッチし、作品をどうするかの決断が早いと思います。アイデアを思い浮かべてすぐに実践できる、その行動力はどこから湧いてくるのか。「昔からやってますよ」とご本人は言いますが、昨年と比較しても随分と表現が変わってきています。こんな熟練された技術を持つ方が、柔軟に新しいことにチャレンジできることにも驚いています。


- 蘭さんのようなミッドキャリア枠の入選作家は、ギャラリーにとってどのようなメリットがあると思いますか?
- ミッドキャリア枠のアーティストは即戦力だと思います。キャリアのあることで誘いづらい方でも、公募展に応募されていることで声をかけやすいのもいい。例えば、同じ銀座エリアの画廊で発表し続けている50代の作家に「うちでやりませんか?」とは言いづらいです。たとえ展示に誘ってほしい人がいたとしても、私たちにその声が届かなければうまくいきません。そういう意味で「Artist meets Art Fair」は、まさしく出逢いのために用意されてる感じがします。アーティストにとっても「ミッドキャリア枠」と言う名称が潔くて再挑戦しやすいように思えます。
- 「Artist meets Art Fair」のミッドキャリア枠の核心をついていただいた気がします。ありがとうございました。
- 制作に関する情報をキャッチし、作品をどうするかの決断が早いと思います。アイデアを思い浮かべてすぐに実践できる、その行動力はどこから湧いてくるのか。「昔からやってますよ」とご本人は言いますが、昨年と比較しても随分と表現が変わってきています。こんな熟練された技術を持つ方が、柔軟に新しいことにチャレンジできることにも驚いています。

hide galleryは、東京のアートブックストア「BOOK AND SONS」と神戸の老舗画廊「KAWATA GALLERY」が共同プロデュースするコンテンポラリー・アートギャラリーとして設立。BOOK AND SONSが世界中のアートブックのセレクトを通じて培った鋭い視点と、60年にわたりアートフェア東京をはじめ数多くのアートフェアに出展し続けてきたKAWATA GALLERYの豊かな経験をあわせ、新しい時代のアートをキュレーションしている。
1975年石川県生まれ。1997年京都精華大学美術学部日本画専攻卒業。2004年から京都を中心にアートスペース虹、ギャラリーモーニングなどで個展・グループ展にて発表。
「日々の暮らしや、少し純化された文学や音楽から受け取るものが線になり形になる。それをまた何処かの誰かに手渡す事が出来たら嬉しい。言葉に置き換えられない線や形を見てみたいと描いている」
東京・銀座8丁目の1階、ガラス張りの小さな画廊。美の起原展は、2012年よりニューフェイスの登竜門として開催するジャンルを問わない公募展で、毎年300点ほどの応募がある。また、企画画廊として心に響く展示をお届けするよう心掛けている。
「人は何故、アートに魅了されるのでしょうか。まだ見ぬ、触れたことのない感性を探し進化の海を旅する『イマジネーショントリップ』を掲げ、制作支援活動と発表の場を設けています。作品を通して皆さまとの絆をさらに広げる「旅」となりますように」
1975年熊本県生まれ。2001年東京藝術大学彫刻専攻修了。2010年からチェンソーカービングを始め国内外の大会で優勝実績多数。2018年イタリアのイベント“LIgnum summer art Edolo”の木彫シンポジウムに参加。
「2018年のイタリアでのシンポジウムで開けた『マッスからの逸脱』の中で見えてきた。自身が美しいと思う『こもれび』『柔らかい表情の女性』の2つが合わさった形を模索し、ようやく集約された作品が見えてきた処である」