
「KOBE ART MARCHÉ」では、次世代を担うアーティストの発掘と支援を目的とした公募展「Artist meets Art Fair」を開催しています。公募展の入選者には「KOBE ART MARCHÉ」会場内での展示や、今後の発表の場を設けるきっかけとなる出展ギャラリーとのマッチングといった特典があります。多くのアーティストがこの公募展の入選をきっかけに、その後のさまざまなアーティスト活動へとつなげています。
今回の「Stories After Art Fair」では、2024年の第9回「Artist meets Art Fair」の一般枠で入選した岩本依留羽さんの作品を取り扱うことになったギャラリーMOS代表の松本恵介さんに、岩本さんを選んだ理由や、アーティストとの向き合い方についてお聞きしました。

- 「Artist meets Art Fair」のアーティストの中で、なぜ一般枠で入選された岩本依留羽さんを選ばれたのでしょうか?
- 岩本さんの第一印象は作品の完成度が高いなと。作り込みも綺麗で、癖があるわけでもないのにお付き合いのあるギャラリーがないのが意外でした。ただ、「KOBE ART MARCHÉ 2024」期間中は、ご本人にコンセプトや制作過程を聞いただけで終わりました。
というのも、うちのギャラリーは地方にあるので、東京や大阪のギャラリーに比べると作家さんに選ばれにくいと考えています。だからこそ黎明期というか、作家さんの活動初期に知り合わなければ、ともに活動をする流れにならないと思うところもあります。
それもあって名刺交換した「Artist meets Art Fair」の入選作家にも、こちらから積極的にアプローチすることはありませんでした。そこに岩本さんから「大学の同級生が伊勢で展示をしているので、それと合わせてギャラリーに行きたい」と連絡いただいて、ビビッときて。しかもそれが私も見るつもりだった作家さんの展示だとわかって、一緒に見に行くことにしました。
その日は岩本さんと4、5時間程一緒にいましたが、神戸以来でほぼ初対面なのに会話をしていて信頼できる感覚がありました。私の中でアートフェアでアーティストを紹介するのは、ギャラリーで展示した上で納得してからと考えていますが、岩本さんはアートフェアに作品を出してもいい方だと直感的に確信しました。それで帰り際に金沢のアートフェア(「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」)にお誘いしました。
画廊での個展やグループ展に参加してもらっても人によって接点の頻度が違って、ギャラリーとアーティストが互いを重要だと思えないとうまくいきません。神戸で話した時には、どこまでギャラリーとのやりとりを具体化していいのか、岩本さんもまだ疑心暗鬼だったと思います。だからタイミングよく伊勢の展示と合わせてギャラリーに来ると言っていただけてよかったです。伊勢に向かう車中は知り合いを含めて3人でしたが、岩本さんはコミュニケーション力が高く、会話を盛り上げてくれました。
- 公募展の時もアーティスト同士が支え合っていて、岩本さんの気遣う様子も印象に残っています。
- そうですね。金沢では出展作家さんとご飯に行きました。岩本さんは初対面の他の作家さんたちとすぐに馴染んで、以前から一緒にいるような雰囲気でした。

- 私は作家さんの起こす風に乗ることができたというか、作家さんのアクティブさが私にいい出会いを運んでくださる気がしています。岩本さんが公募展「Artist meets Art Fair」に応募していて、その後に自分にメールを送ってくれて、しかも私も行こうと思っていた展示と合わせてギャラリーに来るという。そういうタイミングも含めて作家さんとの運命を感じます。
- 岩本さんにもその運命を感じられたのですね。
- そうですね。岩本さんの場合はまだ出会ったばかりですが、長く付き合えたらいいなと思います。
- 岩本さんは制作活動に集中したいと、2024年は「Artist meets Art Fair」をはじめ、積極的に公募展に応募したそうです。
- 藝大を出られてから教えることが長くなって制作活動がままならず、発表の機会を求めて応募されたと話していました。5月には「KOBE ART MARCHÉ 2025」への出品をお願いしています。その後、10月にギャラリーMOSでの個展も予定しています。他にも展示が決まっているそうで、アクティブに動かれたのが実を結んだのでしょうね。

- アーティストと出会う場はさまざまだと思います。例えば、美術大学の卒業制作展を見に行かれることもあると思いますが、「Artist meets Art Fair」との違いについてどう思われますか?
- 東京の美大の卒展も見に行きますが、東京のギャラリーでの展示が決まっている場合が多いです。一方、地方の美大では作品の前に作家さんが立っていることは少なく、ワンステップで接点を持つことは難しいのかなと感じています。だから「Artist meets Art Fair」は、アーティストと出逢える運命的な場であると思います。
私はアートフェアで主に展示している作家さんに対して使命感を感じています。お誘いしたからには一緒にやっていきたい、伴走して力になりたい。岩本さんはこれまで展示する機会がなかっただけなので、できる限り作品の出品をお願いしたいと思っています。
ギャラリーとアーティストはお互いの信頼関係が大切で、それにはいいバランスが必要です。そういう意味で、ギャラリーと一緒に作りあげてくれるアーティストがいて、今、アートフェアなどさまざまな場所に展開することができています。
- 岩本さんも運命を感じられているのではないでしょうか。「KOBE ART MARCHÉ 2025」ではギャラリーMOSブースより岩本さんが出展されるということで、とても楽しみにしています。今日はお時間いただきありがとうございました。


画廊の使命として、日本美術にもゆかりのある街で、忙しなくモノへのこだわりを失いつつある現代において、見た人それぞれの感性で「心を豊かに、人生に潤いをもたらす作品」に出会える手伝いを担う。ときにあたたかく穏やかな心と活力をもらえるような動物・植物・自然・人をモチーフにした作品を主に扱う。作家は地元在住出身にかかわらず県外全国で活動している才能豊かな将来性のある若手を中心に個展またはグループ展形式で紹介。
1992年愛知県生まれ。2016年東京藝術大学工芸科鋳金研究室卒業。2018年東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻鋳金研究分野修了。目には見えない心の中の事象を、作品として見える形にして残しておきたいという欲求を原動力に制作している。