「KOBE ART MARCHÉ」と同時開催される公募展「Artist meets Art Fair」は、若手アーティストの新たなステージへの挑戦を後押しするプログラムとして開催を重ね、多くのアーティストが、神戸から広いアートマーケットの世界へと羽ばたいていきました。
本記事では、「Artist meets Art Fair」入選者たちが、当時どんな思いで応募に踏み出し、そして、その後どのような道を歩んでいるのかをご紹介していきます。
今回は、2025年開催の第10回 「Artist meets Art Fair」ミッドキャリア枠で入選された小林眞治さんにお話を伺いました。
応募に至った背景、入選作について、そして応募を検討している方へのメッセージなど、さまざまなお話をお聞きしました。
- まずは、「Artist meets Art Fair」に応募されたきっかけからお聞かせいただけますか?
- 今回の応募は、私にとってひとつの節目であり、静かに扉を閉じるような「締め」の行為でした。
これまで20年以上、作品がなかなか思ったように仕上がらず、形を結ばないまま、自分の内側と向き合い続ける日々でした。
言葉にならない思考や感情をどのように絵のかたちにするのか──その問いに向き合い続けるなかで、発表の機会はいつの間にか遠のいていきました。この間、一切作品を発表していません。
表現が外へ開くことなく、鑑賞者との循環も途絶えたまま、時間だけが積み重なっていく。
その閉じた空間の中で、ずっと描き続けていたんです。
その“停滞”とも“熟成”ともいえる時間を経て、ようやく現在の作品が自分の中で形を持ち始めたのが昨年の冬頃でした。
今の作品なら、外に出して発表できる。そんなタイミングでたまたま見つけたのが「Artist meets Art Fair」です。タイミングがピタッとはまり、呼吸が合ったような気持ちでした。
今回の応募は、長く続いた沈黙をそっと外へ向けて開くような、そんな静かな行為でした。
「誰かに見てほしい」というよりも、「ここまで来た」という自分自身への確かな印のような感覚でしたね。どこかに作品を応募したら通るだろう、誰かに見てもらえれば絶対伝わるだろう、という確信がありました。
- そんな節目のタイミングで迎えた応募だったのですね。入選の知らせを受けた際のお気持ちはいかがでしたか?
- まず何より、単純に嬉しかったです。
ただ、その喜びだけでなく、「ようやくスタートラインに立てた」という実感の方が強かったかもしれません。
これまでの制作は、アトリエでひとり、黙々と試行錯誤を繰り返す時間の連続でした。
外に向けた視線を持つ余裕すらなかった私にとって、入選という結果は、自分の内側にあった小さな確信をそっと形にしてくれる出来事でした。
- 入選作品について、コンセプトや制作時の思いを教えていただけますか?
- 当時の作品は、自然や風景を写すものではなく、「存在の具証」をテーマにしていました。
筆を運び、線を重ねるなかで、「いま・ここ」にある感覚──呼吸や体温のような、生きている確かさを紙の上に留めようとする試みです。
色や線は対象を写すためではなく、私の中に残る記憶のかけらや、その瞬間の身体の動きを可視化する手段でした。
完成の状態を目指すというより、「描いている時間」そのものが作品の核にある。
今振り返ると、あの時期の作品はとても素朴で、不器用で、でもいちばん「静かな誠実さ」が宿っていたように感じます。
- 2025年の「KOBE ART MARCHÉ」では3点を展示されました。会期中、特に印象に残った出来事はありますか?
- ある来場者の方に、「風景が見えるようで、見えないですね」と言われたことがありました。
まさにその“間”にこそ私が描きたい世界があると思っていたので、その言葉は深く心に残っています。
また、別の方からは「音楽的なリズムを感じる」と言っていただきました。
私にとって「描くこと=時間を感じること」なので、その感覚を共有していただけたことは、とても励みになりました。
会期中は会場に在廊しており、他の入選アーティストたちの熱量も強く感じました。
また、個展を開催したとしても出会えないような、個人の繋がりでは知り合えないようなお客様がたくさん来てくれて、とても充実した時間となりました。それがアートフェア会場で展示できる魅力だと思います。
- 今後の制作について、どのような展望をお持ちでしょうか?
- 2025年頃の作品を起点に、最近は屋外スケッチや透明水彩へと表現を広げています。
アトリエの静けさの中で向き合う制作とは対照的に、外では光や風、偶然が制作に入り込んできます。
今後は、その“制御できないもの”とどう共存し、作品に取り込んでいくかを探っていきたいと考えています。
最終的には、これまでの流れがひとつの長い軌跡としてつながり、“ライフタイム・カラーズ”と呼べるような仕事にまとめられたらと思っています。
- 最後に、応募を検討しているアーティストの方へメッセージをお願いします。
- なかなか発表の機会がないアーティストも多いと思いますが、ぜひ勇気を持って、一歩を踏み出してほしいです。作品は、鑑賞者に見てもらって初めて意味を持ちます。たとえ閉じこもって制作を続けていても、どうしても限界にぶつかるものです。だからこそ、外に出すことは非常に大切だと感じています。
私自身も「Artist meets Art Fair」をきっかけにSNSを更新するようになり、作品への反応が増えたり、ギャラリーからお声がけをいただいたりと、制作に良い変化が生まれました。
作品を外に出すことは、同時に自分を見つめ直す行為でもあります。結果よりも、応募に向けて作品と真剣に向き合うその時間が、必ず次の制作に活きてきます。
迷っている方がいれば、まずは一度、「いまの自分の具証」を差し出してみてください。その一歩が、必ず次の制作への道を開いてくれるはずです。
1998年東京藝術大学大学院修士課程修了。1999年ドイツ:ニュルンベルグ芸術大学。制作テーマは「Lifetime colors」。その時々の思いや感情を色彩に留め、平面作品として表現しています。
鉛筆のようにオイルパステルを用い、光や感情をリアリズムとアブストラクトの間で画面に転化する手法を取っています。今後は、作品同士の関係性から生まれる空間を作り、より豊かなイメージを提示していく予定です。

