
「KOBE ART MARCHÉ」では、次世代を担うアーティストの発掘と支援を目的とした公募展『Artist meets Art Fair』を開催しています。入選者には「KOBE ART MARCHÉ」会場内での展示や、出展ギャラリーとのマッチングといった特典があります。多くのアーティストがこの公募展の入選をきっかけに、その後のさまざまなアーティスト活動に繋げています。
今回の「Stories After Art Fair」では、2024年の第9回「Artist meets Art Fair」のミッドキャリア枠で入選した出口朝子さん、蘭二朗さんに、応募のきっかけや展示の様子、その後のご縁についてお聞きしました。

- お二人が「Artist meets Art Fair」に応募したきっかけを教えてください。
- 蘭
私は大学を卒業してから、チェーンソーアートの業界でしばらく活動していました。チェーンソーアートとは1本の原木からチェンソーを駆使し、ダイナミックかつスピーディーに作品を作り上げるジャンルです。美術業界から随分離れていたのですが、ある日チェーンソーアートとは違った作品を作ってみたいとふと思いました。その時に制作したのが、「KOBE ART MARCHÉ2024」(以下KAM2024)に出品した作品です。
- 繊細な彫刻の女性像でした。確かにチェーンソーでは作るのが難しそうです。
- 蘭
それまで量感のある作品が主だったのに対して、この2作品は薄めで軽くて壁にかけることができます。2017、18年と2年連続でイタリアのシンポジウムに参加して、現地でインスピレーションを受けました。できあがってからどこに展示しようかと考えた時に、公募展に出したいと思いました。ただ半立体で彫刻なのか平面なのかわからず、当てはまる条件を苦慮していた時に「Artist meets Art Fair」の募集が目に入りました。要項にあったサイズを見たらぴったりで、それで応募しました。
- 作品が完成した後に「Artist meets Art Fair」を知ったということですが、それまで「KOBE ART MARCHÉ」もご存知なかったのでしょうか。
- 蘭
「Artist meets Art Fair」も「KOBE ART MARCHÉ」もFacebookで見て初めて知りました。
公募展の副賞って大体は賞金ですが、それがKAM2024での展示と出展ギャラリーとのマッチングとあったのがいいと思いました。
- 出口さんはいかがでしょうか?
- 出口
私は、1、2年に1回ぐらいのペースで個展をしていたのですが、そろそろ違う場所でも展示できたらと思っていた矢先に流れてきたInstagramの広告を見て、これだ!と思って応募しました。あと蘭二朗さんと同じく、副賞のコマーシャルギャラリー✳︎とのマッチングが魅力でした。
✳︎コマーシャルギャラリー:企画画廊とも言われる、展覧会の企画、作品販売を主とするギャラリー。それに対して「期間貸し」を行っているギャラリーはレンタルギャラリーと呼ばれる。

- それまでコマーシャルギャラリーとのお付き合いはなかったのでしょうか?
- 出口
以前、ご紹介されたことがありますが、その画商さんとは合わずに話が流れてしまいました。それ以来、商業的なところに自分の作品が合わないなら、マイペースに活動すればいいとやってきました。でも作品が売れた方が作家活動を続けやすいし私も嬉しい。それでレンタルギャラリーよりもコマーシャルギャラリーで展示したいと考えるようになりました。
- 作品が売れるというのは評価の1つですし、やっぱり売れたら嬉しいですよね。
KAM2024に参加した感想や印象に残った出来事などがあればお聞かせいただけますか? - 蘭
ギャラリーも公募展も含めて色々な作品を一度に見ることができたのがすごく良かったです。期間中、多くの作家と話せたのも刺激になりました。
出口
レンタルギャラリーで発表していた時はギャラリー巡りをしている人が多く、一般の人が入りにくい雰囲気がちょっとありました。それがKAM2024では、自分がギャラリーで見かけないような方がいらっしゃっていて、皆さん楽しそうにしていたのが印象的でした。
- 蘭さんのチェンソーアートを見る方とも違いますか?
- 蘭
全然違いますね。チェンソーアートはフラッと来た一般の人が見ることが多く、アートフェアやギャラリーで作品を発表するとアートに関心の高い人が見てくれるので、自分の心情も含めて専門的な内容を詳しく話せたのが良かったなと思います。
- お二人ともホテルの展示は初めてだったと思いますがどうでしたか?
- 蘭
ホテルの展示は慣れていなかったのでどうなるかと思いましたが、お客様には部屋に作品を置いた時にどう見えるかをイメージできると言われて良かったです。
出口
私の展示していた壁は白くなかったので、かえって作品の余白がはっきりして、自分としては良い展示になったと思いました。一緒の部屋に展示したJunsei Ohさんの窓際の作品が光が透けて見えるのもギャラリーにはない面白い展示だと感じました。

- お二人ともギャラリーとのマッチングがうまくいったとお聞きしていますが、繋がったご縁やその後の展示について教えてください。
- 蘭
私は自分の作品に興味を持ってくれたギャラリー全てにメールを送りました。その中で、最初にRA art Galleryの荒井さんからご連絡をいただきました。自分の工房に来てくださって、アーティスト活動をするにはどうしたらいいかについてアドバイスをいただきました。そこから色々自分で動くようになりました。
- 荒井さんとは具体的にどんなお話をされたのでしょうか?
- 蘭
それまで私は何も発信してなかったので、それが勿体ないからとにかく自分から発信した方がいいと言われ、Instagramの投稿の仕方などを教わりました。また自分のWebサイトも作った方がいいと教えてもらって立ち上げました。
荒井さんは横浜の方で、地元の神奈川の作家を応援したいという気持ちが強く、私は県内の山北町在住なので気にかけてもらったのだと思います。展示の話までは至っていませんが、外に発信することが大事だと教えていただいてすごく助かりました。

- 蘭
それからアートデアート・ビューの杉田さんからご連絡いただいて、昨年10月に百貨店の企画展で展示をしました。ギャラリー アートデアート・ビューで新年恒例の展覧会「New Year Gift 2025」(1月22日〜1月31日)でも展示をします。他にも銀座画廊美の起原でグループ展「Ginza 1to8 アート銀座 188」(2月3日〜2月8日)に参加予定で、こうしたギャラリーとの繋がりができてありがたく思っております。
- 昨年の展示では作品が売れたそうですね。初めて作品をご覧になった方が購入までされるのはすごいことだと思います。会期中は蘭さんも在廊されたのでしょうか
- 蘭
作品を8点出品して、会期前半に3点売れたので、途中、作品の追加をし、最終的に4点が販売となりました。代表の杉田さんのおかげだと思っていますが、結果が出て良かったです。
百貨店での展示自体初めてなので在廊しましたが、作品を買う意識の高いお客様が多く、今までとの違いを感じました。

- 出口
私はhide galleryとご縁をいただき、台北のアートフェア(ART IJ 2024)、金沢のアートフェア(KOGEI Art Fair Kanazawa 2024)に出品していただきました。金沢では作品が売れたと聞いて嬉しかったです。
今年は4月19日から5月11日にかけてhide galleryで個展を予定しています。天井高約4mのギャラリー空間で、自分にとってチャレンジングな展示です。絵をメインに展示するのが一般的ですが、hide galleryの大きな窓から入る自然の光を生かしながら照明も当てることを考えると構成が難しい。そこでディレクターの石田さんに迷っていることを話したら、平面作品のいい展示をしているので見に来てはどうですか?と誘ってもらいました。
- ディレクターの石田さんからはアドバイスがあったそうですね。
- 出口
これまではディレクションされた経験がなかったので、石田さんからのアドバイスは新鮮でした。話を聞く中でなるほどと思うことも多く、学びがあります。感性が合うからでしょうけど、ギャラリーと協働している感じがあって嬉しいです。
- 蘭さんも今やりとりしているギャラリストとの関わり方はこれまでに比べてどうですか?二人三脚できるギャラリーの人がいるのは違いますか?
- 蘭
昔はレンタルギャラリーが多かったので、そもそもギャラリーから誘われて展示をすること自体ほとんどありませんでした。声をかけていただいて展示をするのはすごくいいことだなと思っていますし、共に歩めるギャラリストがいるのは大きな支えです。こういう作品を作ってみたらと言われると、次の目標ができます。

- 出口さんはこの公募展がなければ制作をやめていたかもしれないと、KAM2024レセプションの挨拶で涙ぐんでいたのが印象に残りました。
- 出口
私の絵画活動をずっと応援してくれていた父の入院もあり、レセプションの挨拶では胸に込み上げてくるものがありました。制作を続けていくのは大変で、私の場合は親が援助してくれたから続けられました。作家活動をやめるか悩んでいた時に公募に受かって、改めて頑張ろうと。父が亡くなる前にチャンスを掴めて良かったと思います。
- 本当に良かったです。アーティスト活動を続けていくのは大変だとお聞きします。作品を売るとなるとさらに難しく、作品が溜まっていくとか。
- 出口
そうです、大きい絵を描くと作品の置き場に困ります(笑)。そういうことも考えると、このあたりでどうにかしないと埒が開かないと感じて公募展に応募したのだと思います。
蘭
そうですね。出口さんの言うことはよく分かります。でも自分は作りたいものが湧いてくるので、形にせざるを得ない。ただそれの行き場がないとね。入選してからありがたいことにアウトプットする場所ができたので、今は楽しんで制作しています。
- 最初に湧いてきた作品の行き場が「Artist meets Art Fair」で、その後も発表する場に繋がっていくことができて良かったと思います。
- 出口
私もプラスになって感動しています。すごい展開やなと。個展ではいい作品を発表したいと思っています。
- その後にKAM2025にも出品されると、hide galleryディレクターの石田さんからお聞きしました。
- 出口
はい。石田さんとはギャラリーの話をするだけでなく、石田さんご本人がダンスをされていて、私もダンスに興味があって通じ合うものがあります。そういう共通項みたいなものがあると共感する力が強まります。出会うことができて嬉しいです。

- 最後に、これから応募しようと考えている方に向けたメッセージをいただけますでしょうか。
- 蘭
この公募展をきっかけに人生が変わります。本当にそれぐらいの公募展だと思います。私と同じミッドキャリア枠に入選された方には、自分のやりたいことができるようになりますと伝えたいです。
出口
私も全く同感です。私自身40歳を過ぎてから見えてきたものが多くスロースターターですが、KAMでの様々な出会いで色んなスイッチが入った気がします。
入選して終わりではなく「ここからが始まり」の公募展だと思います。
- アーティストの方にそう言っていただけると嬉しいです。お二人とも、今日はありがとうございました!

1975年石川県生まれ。1997年京都精華大学美術学部日本画専攻卒業。2004年から京都を中心にアートスペース虹、ギャラリーモーニングなどで個展・グループ展にて発表。
「日々の暮らしや、少し純化された文学や音楽から受け取るものが線になり形になる。それをまた何処かの誰かに手渡す事が出来たら嬉しい。言葉に置き換えられない線や形を見てみたいと描いている」
1975年熊本県生まれ。2001年東京藝術大学彫刻専攻修了。2010年からチェンソーカービングを始め国内外の大会で優勝実績多数。2018年イタリアのイベント“LIgnum summer art Edolo”の木彫シンポジウムに参加。
「2018年のイタリアでのシンポジウムで開けた『マッスからの逸脱』の中で見えてきた。自身が美しいと思う『こもれび』『柔らかい表情の女性』の2つが合わさった形を模索し、ようやく集約された作品が見えてきた処である」